再会
最後の方すこーし暗くなります。
「ハヤト! なぜお主がここにおるのだ!!」
このロリロリしい見た目で俺と対して年齢の違わない年齢詐称幼女合法のじゃロリマルガリータは、似合わぬ際どい海賊衣装を身にまとい俺の目の前まで迫ってきた。胸元が泣いているぜ。
「ちょっとな、バーリへ行きたかったんだが手持ちがなくて……」
「密航したのか!?」
「違う! 人夫のアルバイトをしてそのまま乗せてもらったんだよ!」
「それでヴァッカリオの船におったのか……いやはや不運な……」
「全くだぜ。まさかサヴォアの奴隷商人だったとはな」
「……どちらかと言えばヴァッカリオの方じゃかな」
「そ、それはねえだろ!」
「ともかくじゃ、奴隷商を壊滅させたというのは手柄じゃ! バーリの民に代わって礼をゆうぞ!」
「ん? なんで奴隷商人をぶっ殺してお前に礼を言われるんだよ?」
「そ、それは……」
「ああ! こいつら、バーリを通さないで奴隷をさばくもんな」
「違う! バーリが奴隷を売買するようになったのは今の侯爵に変わってからじゃ!!」
「そなの?」
俺はラディに聞いた。
「さぁ……わからん。俺もバーリについてはあまり知らないんだ」
「西側は奴隷を使ってるイメージがあるけどな俺っちは」
フレックは言った。
「そーなのか? じゃなんでボルサヴァに奴隷商人がいるんだよ」
「カナンに売りに行った帰りなんじゃないか?」
「へえ……あそこは奴隷使うんだ」
「それに、レティエやボルサヴァの対岸にはカナンのおこぼれを貰う都市国家がうじゃうじゃあるからな。そういうとこにも需要があるんだ」
「都市国家?」
フレックにしてはやたら詳しいので驚いた。
「まあ対岸って言うほど近くもないけどさ。陸からだと、レティエから東へ国外に出て進むといくつもあるんだよ。ま、船使ったほうがはえーけどさ、やっぱ金かかっしな。陸路で歩いてくるやつにとってはレティエがイリアの玄関なんだよな」
「へー」
「とにかく! よくやったのじゃ! 褒めてつかわすぞ!」
「まあ……うん、ありがと……う?」
「お嬢、宝箱は運びました。どうしましょうか」
「うむ! では各自船内を漁るが良い」
うおー、と歓声が上がった。
ん? まてよ、中にはまだ殺人マシーンがいるんだった。
「ちょっとまて! まずい、それはまずい!!」
「なんじゃ? 隠している財宝でもあるのか?」
ギクッ、としたがそれどころではない。
「船内には仲間が……まだ知らないんだよ! 襲ってきた海賊が、俺の知り合いだってことをさ!!」
「心配するな。殺しはせぬ」
「違う! こっちが殺しちまうんだって!」
「いくらなんでも我々を甘く見過ぎじゃ!」
「この船の船員、ほぼそいつらが皆殺しにしたんだよ」
「まさか」
「本当なんだよなぁ……」
「……」
「ちょっとまっててくれよ! そいつら見つけて連れてくるからさ。ちょっとだけ! さきっちょだけ!」
「わらわもゆく!」
「えぇ……なんて面倒くさいことを言い出すんだこいつ。もし何かあったら俺が海賊たちに殺されるだろうが!!」
「お嬢、それはすこし危のうございます」
横にいたガタイの良い男がマルガリータを諌めた。いかにも海賊! と言うような風貌だった。船乗り特有の濃く焼けた赤銅色の肌に、左目に眼帯をつけていて、百人が百人、この人が海賊の頭だ! というだろうな。
ん? この男そう言えば、マルガリータと祝杯をあげたときにマルガリータを回収していった男じゃないか? あのときは結構白い肌だったのになぁ。
「あんた、あのときマルガリータを連れてった人?」
「ああ。あの時は名も名乗ってなかったな。バジーリオだ」
手を差し出したので俺も握手した。
「俺はハヤト。アリっ……じゃなかった。ハヤト・アリマだ」
「ほう! ハヤトお主、名字を持っておるのか!」
マルガリータが驚いた顔をしていた。そう言えば、名字を持っていないやつも多いんだよなイリアって。
「まあな。しかもおらぁタキトゥス王家の騎士様だぜ! 貴族様だぜぇ!」
「ほう! そんな昔に滅んだ国の名を知っておるとは、なかなか博識じゃのう!」
「……」
王国ェ……
「お嬢、まだ滅んでませんぜ」
「なぬ!? まだあるのか!???」
「ええ。たしか現国王の娘が侯爵に謁見したと伺いました。なんでも、野犬退治に兵をだせとか……」
「ははは! なんじゃそれは!!」
なんだろうなそれ……
「俺たちが退治して、騎士になったんだよ……」
説明していて恥ずかしくなってきた。
「野犬を退治した程度で騎士!? はははは、ヌハハハハ!!」
「もう笑うな! ほれこれ! 騎士の証って渡された剣!!」
腹を抱えて息切れしているマルガリータに、王さまに渡された剣を見せた。
「バジーリオ! 見てみよ!! 犬の駆除で渡された、剣だと!! ヌハハハハハハハハ!!」
「このやろう、流石にキレるぞ! おお??」
横のバジーリオはまったく笑わないというのに、このつるぺたは! まったくムカつくぜ。まあギャグみたいな話だから、笑うのも無理はないんだがな。
「お嬢、これは本物ですぜ。本物の王家の紋章でさ」
「なに? 貸してみよ」
俺から宝剣を奪い取ると、マルガリータはまじまじと刻印された紋章を見た。
「なにすんだ!!」
「お主、これをどこで……」
「だーかーらー、王さまから貰ったの! 俺騎士よ? 貴族様ぞ??」
「うーむ、にわかに信じがたきことじゃが……」
「返せって!」
俺は無理やりマルガリータから奪い返した。
「まったく……っと、話がそれちまったが、とにかく俺は仲間を見つけてくるから、ちょっと待っててくれよ」
「あら〜? 兄さまは何をしているのかしら?」
「あれ〜? 兄さまは何をしているの?」
血まみれの、殺気ギラギラの双子が船室から上がってきた。
ぶん、とレネは斧をマルガリータに投げつけた。
「あっぶ!!」
俺はとっさにマルガリータをかばって押し倒した。
「ふん!!」
投げた斧は、バジーリオが剣で弾き返す。そしてそのまま双子へ突進していった。
「あら?」
バジーリオはレネを切ろうと剣を振り回す。しかし既の所でレネは避ける。
「だめだよおじさん」
剣を携えたロランは後ろからバジーリオを襲うが、それも受け止められてしまった。するとレネは無防備になったバジーリオの両脇を持ち上げようとするが、バジーリオはガクッと下に体を落としてレネとロラン両者に足払いをした。
双子は上手く手を使って体勢を立て直す。両者は、俺たち一般人には見えない間合いによって隔てられ、動かなくなった。
あまりに一瞬のことで、呆然と眺めることしかできなかった。やべーぞコイツラ。
「ま、まてまてまて! レネ、ロラン! そいつは味方だ! 俺の知り合いなんだ!! バジーリオ悪かった。悪気はないんだ矛を収めてくれ!!」
「し、死ぬかと思ったぞ……」
立ち上がろうとするマルガリータに手を貸して引き上げた。
「俺もだよ……あとこれからお前の仲間に殺されそうだから、お前からもなんとか言ってくれ……お願いします……」
俺が言ってもバジーリオは臨戦態勢を解除しなかった。なのでレネとロランも、武器こそ構えていないものの、その殺気が収まることはなかった。
「バジーリオ! 止めるのじゃ!!」
「はい」
ようやく剣をしまったバジーリオだが、まだ完全には信用していないみたいだった。双子だけ、だと思いたいが……
「すまん。こうならないように、付いてきてほしくなかったんだよ。あの双子やべーから」
「うむ……まあそれはよい。じゃが大丈夫なのか? お主が居ないところで暴れられたら、流石に止められないぞ。バジーリオがあれほど苦戦する相手をわらわは初めて見た……」
「言い聞かせれば大丈夫だから! 普段はおとなしいやつらだよ!! うん!!」
「ならよいが……」
「そう言えば、ロホスとフーゴ、そしてアルフレドも姿が見えないな」
俺たちとは反対側に避けたラディが近づいてきた。
「ほんとだ。どうしたんだ?」
「三人は下でお相手中よ?」
「お相手? まだ残ってるのか?」
レネから話を聞こうとしたその時、ロホスが甲板に上がってきた。
「どういうことだ、これは?」
「ロホス! 大丈夫だ。コイツラは俺の知り合いだ」
「そうか。それは何よりだ。それよりもだ、実に厄介なことになった」
「どしたの?」
「奴隷が一人居たんだ」
「奴隷……売れ残りってやつか?」
「それが……」
ロホスは苦い顔をしたまま黙ってしまった。
「なんだよ……」
「今はアルフレドが手当てをしている。しかし……男ではどうもな。だからレネを探していたんだが……」
「おいおい、まさか女か?」
「ああ……」
女の奴隷が一人船の中にいる。この事実は、この場に居る者すべての口を塞ぐには十分な事実だった。
「レネ、わかってて上がったな」
俺はレネに言った。
「ええ。だって嫌なんですもの」
「ハヤト! お前は行くなよ!!」
ラディは強くそう言った。
「ああ……そうだな。それがいい。俺もわかってはいるんだが、どうも目の当たりにしちまうとな」
マルガリータは不可解な面持ちで俺の顔を見ている。
マルガリータが言葉を発しようとしたその時、船内からドタバタという音と共に女の叫び声がした。言葉にならない恐怖を声帯で表現しているような、そんな悲痛な叫び声だった。
そして、甲板にボロボロの女が出てきた。恐怖に支配されてわけもわからず走り回っているようだった。
その女は俺の方へ走ってきた。そしてぶつかって女は倒れた。ただただ震え頭を抱えながら丸まって、ちらりと見えた瞳の色は暗く、また異臭が海風に吹かれ臭ってきた。男に襲われ続けた女の発する匂いだ。
俺は、とっさに……剣を抜いて女を殺してしまった。
「ああ……まただ……」
「ハヤト、なにも殺すことは無いじゃろう……」
「そうだよな。そうなんだよ……なんで……やっちまったんだろうな……」
崩れるように膝を落として、頭を垂れた。
「ごめん……ごめんなさい……」
甲板には俺の涙が数滴垂れた。それ以上に血は流れた。




