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仲間のために

「しかし、ラディが公子だった事も驚いたが、ハヤトが神渡りしたやつだったことのほうが驚きだな!」

 お調子者のフレックは何時も余計なことしか言わない。

「随分と序盤から聞いていたみたいだな。ん? 大声を出していたのは終盤だったと記憶しているが」

「へへへ」

 三文字で流すことができるのはフレックのその性格故だろうか。便利な性格していて羨ましいな。

「もしも加護を受けし者ならば、神の力を使えるという。ハヤト、なにかできないか?」

 ロホスはそう質問してきた。

「そうは言われてもな。できたら盗賊なんてしてないぜ?」

「気づいてないだけかもしれない」

「どうやって気づけるんだよ?」

「ううむ……」

 流石のロホスも押し黙る。なにか不思議な力があるかもしれません、なんて占い師でも使わないペテンだ。

「そういえばよ、神様ってのはどんなんだ?」

「どんなものか、とは?」

 ロホスは腕を組みながら答えた。

「名前とか、逸話とかさ」

「うむ。何柱も居られるが、最も格式高い四大神のことを話そうか」

「四大神?」

「世界を作り給うた四つの神だ。大地の神アテラ、大海の神ネプラーン、月の神ディアルナ、太陽の神イシュメラ」

「へぇ、土属性と水属性と火属性と……月? はなんだ?」

「無粋だな。そんな言い方は」

 ロホスも少し呆れた。うーん確かに無粋だ。

「順を追って説明するさ。まずはアテラからだ。土や岩、砂や鉄など大地のあらゆる物を作ったとされる。そして風を使い世界に行き渡らせた。砂の神とも言われている」

「ふーん。砂の神ね」

 これを聞いたラディは、うつむいた顔を上げて、口を開いた。

「カナンでは主神として崇められているそうだ」

「砂漠に接しているからかな?」

「おそらく、な」

「続けるぞ。大海の神ネプラーンは海や水を司る神だ。雨はネプラーンの涙であり嵐はネプラーンの怒りだという。船乗りはネプラーンを畏れ敬いその航海の無事を祈り願うのだ」

「海の神ね。嵐の風は誰が起こしているのさ。アテラが力を貸してるとか?」

「風の力は、四つの神々がとある神から奪い分けあった物だという。私もその神の名は知らない」

「ふーん……」

 風の神ってのが居たのなら元は五大神なのかな。

「月の神ディアルナは夜を司る。また、氷や死を操る力を持つとされる。非常に危険で恐ろしい神だ」

「あら、ディアルナさまを悪く言うのはキライだわ!」

「そうだね姉さま。ディアルナさまは偉大な御方だよ!」

 双子が話に食いついてきた。

「そうか、二人は雪国の出身だから、氷の神様を信奉しているのか?」

「うーん……そうなのかしら?」

「うーん……そうなのかな?」

 なんだ? なんとも締まらない答えだな。

「どうなんだよ!」

「ディアルナさまがいなければ、わたしたちは獣を狩ることができなかったのよ?」

「それは、狩猟の神様ってことか?」

「他にも! イシュメラさまの大切な火をわたしたちに分けてくださったのもディアルナさまなのよ! 長い雪の季節に凍えて死んでしまわぬように!」

「死神なのにか? 変な話だな」

「ディアルナのいたずらだな。イシュメラとディアルナは仲が悪く、嫌がらせに行ったことだという」

 ロホスは説明してくれた。

「狩りは?」

「元は狼神アセナの物だったが、それを人に分け与えたらしい。アセナはディアルナの飼い犬で、それが原因でディアルナの元から去ったという。狼が人に懐かないのは、主の元を去った後でも、ディアルナを唯一の主人と慕っているからだ」

「嫌になって出ていったのにか?」

「そうだ」

「変な話だなぁ」

「ディアルナはそうやって神々が独占していた知恵を人々に分け与えた。しかし一方で生命に寿命も与えたのだ。だから慕われもするが忌み嫌われたりもしている。一説には、ディアルナとイシュメラは同一の神だという。日が昇るとイシュメラは目を覚ましディアルナは眠りにつく。日が落ちるとイシュメラは眠りにつきディアルナが目を覚ます。だから冬は寒く夜は長いのだ。ディアルナの力が最も強い時期であるからだ」

「へー」

「最後に、イシュメラは太陽を司る神だ。また豊穣の神として広く信仰されている。四大神の長でありまた最も強大な力を持つとされる」

「つまりよ、アテラに祝福されてたら土を、ネプラーンに祝福されてたら水を、ディアルナに祝福されてた氷……? 冷気かな、で、イシュメラに祝福されてたら火を操れるかもしれないんだな」

「うむ、恐らく……」

 皆の注目が集まる。なにかやれと目で言っている。なにをやれと言うんだ!

「そんな目で見るな! さっきも言っただろうが! できるわけきゃねーだろ! 常識的に考えて」

 皆は拍子抜けしたようだった。

「なんかよ、踏ん張ってみれば出るんじゃないか?」

 ラディがそんなことを言い出した。

「出るって、そりゃ踏ん張れば出るさ」

「じゃあアテラか? 茶色いし」

「前から出ればネプラーンかもな!」

 俺とラディはそれで笑ったが他のみんなは呆れていた。だがフレックが顔をそらして笑っていたのを俺は見逃さなかったがな。

「ところでよ、皆はどう思うよ。ラディの幼馴染をどうするか」

 皆は言葉を出せなかった。

「無理だ。今、打てる手などないさ。仕方ないことなんだ……」

 ラディは言った。悲しそうなその声色はあまりにも不憫だった。

「俺には考えがある!!」

 俺は大声でそう宣言した。皆はその言葉を聞くと、一同に驚いた。

「どんな、どんな方法だ!!」

 ラディは立ち上がる。期待をいっぱいに膨らませた、そんな顔をしていた。

 視線が一気に俺に集まった。みんな気になって気になって仕方がないのだろうな。

「簡単だ。簡単な話さ! 俺たち流の方法だ!」

「俺達流の方法!?」

「娼館を襲って、奪い取る!! アクイリア強奪作戦だ!!」

「馬鹿かっ!!」

 間髪入れずにラディの怒号がなり響いた。

「なにがバカか!!」

「お前が馬鹿だ!!」

 皆一同に呆れていた。

「期待した俺が馬鹿だった……」

「ハヤト、それはあまりにも無茶だ」

「さすがの俺っちもそれには反対だ」

「僕でもわかるよ。それは危ない」

「わたしはいい考えだと思うわ!」

「ぼくもー!」

 くそ、そこまで否定しなくてもいいじゃないか!!

「真っ二つに意見が割れたな。しかたがない、予想通りだがな……」

「このイカレポンチの双子は置いとくとしてだ、お前の意見に賛同するものなどいない!!」

 レネとロラン以外、そのラディの言葉にうなずいた。

「レネとロランと俺で過半数は取ってますぅー! フレックは除外で」

「おい!」

 フレックの抗議は無視する。

「ともかくだ、娼館を襲うなんて、正気の沙汰じゃない!! 奴らにどれだけの繋がりがあると思ってるんだ! 万が一成功したとしても、俺たちはイリアで孤立するぞ!!」

 ラディは拳を握りながら言った。それは悔しさの現れのように見えた。

「バーリなんてノクトゥア家の属国は、元々敵みたいなもんじゃねえか! 今更敵に回したところで……」

「娼館……それも高級娼婦を囲うような所は、名だたる大商会、ギルド、いろんな繋がりがある!! そんな奴らに貴族が引いた国境線なんか関係ないんだよ!! それにな、たとえ敵対していてもそういった中立の組織ってのはいろいろと重宝されるもので、諸侯達も必要としている。そんなのを敵に回して、もしも塩留めなんてされたら、こんな小さな村じゃそれだけで死だ……」

「大丈夫さ。そん時は、外国にでも逃げればいいって!」

 ラディは驚いた顔で固まった。

「外国……?」

「そうさ、別にイリアだけが世界じゃない。東のカナンだってある。北にだってレネとロランの故郷があるし、西にはロホスの故郷がある! 砂漠を越えて、ま、俺の故郷ではないけども、似たような国だってあるかもしれないし、行き先なんてどこにでもあるさ!」

「……」

「ラディの想い人なら、俺たちの仲間だ! 騎士の位なんて、雑草よりも価値がないね!」

「ハヤト……」

 俺の言葉に、皆は頷いていた。

「そうだね。イリアに居なきゃいけない訳でもない。僕も、みんなとならどこへでも行ける!」

 フーゴは言った。

「俺っちも、たいして思い入れもないしな! 付き合ってやるぜ!!」

 フレックも言った。

「故郷へは帰れぬ身だ。私も、お主たちとならどこへでも行ける」

 ロホスも言った。

「兄さまがゆくというのなら……」

「どこへでもついて行くよ!」

 レネとロランも言った。

「な? みんなだってそうなんだ。だから気楽に考えろよ! アクイリアを救いに行こうぜ!」

 ラディは涙を袖で拭う。それでも涙は止まらない。

「死ぬかも……しれないんだぞ……」

「かもしれない。まあ、なんとかやるさ!」

「……やっぱり、馬鹿だ! 大馬鹿だ!」

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