第一話
適当に書いてます。辻褄合わなかったらごめんなさい。
俺の名前はアリマ・ハヤト。普通の人間だった。いや、少し出来の悪い人間だった。
高校に入ってからイジメられて、気がつけば部屋から出なくなっていた。そんな俺にゲームはいつも勇気をくれた。くそったれな現実から開放されて、胸踊る冒険や信頼できる仲間たちに囲まれて、そしてなにより俺は主人公だった。
だが現実はどうだ? うだつの上がらぬ毎日、穀潰しと罵られ、家族からは見放され、信頼できるものもおらず、毎日が暗闇の中だ。
ゲームの世界に行けたなら、異世界へ行けたなら、俺はしがらみから開放されて自由に能力を活かせるはずだ。
毎日、そんなことを思う。
思っていたのだ……二年前までは……。
「おいハヤト! 荷馬車が来たぜ!!」
俺は街道の見張りをしている。それが今の仕事だ。無論真面目にしているわけではない。今の今まで寝転がって空を見上げていたのだから。
今、俺に話しかけてきたこいつはラディ。ガタイのいい男で腕っぷしの強いやつだ。今じゃ俺たちのまとめ役にもなっている。
こいつとの付き合いも二年近くなる。俺が団長に拾われてすぐだった。街で倒れているのを助けたんだ。飯を食わせてやっただけだが、それ以来えらくなつかれてしまった。その頃はまだ俺よりも背が低かったのに、今では頭一つほどデカくなりやがった。
この街道も懐かしい。ここは俺が団長に拾わてた場所だ。二年前、目が覚めると突然ここにいたんだ。なんの脈絡もなく、突然だった。俺は布団で寝ていたはずなのに……冷たい敷石の上で目が覚めたんだ。
で、今回みたく街道を見張っていた団長たちに拾われたってわけだ。そんな団長も一月前に死んじまった……。
「騎士が一人ついているな。馬もなかなか良いものだ……どうするよ」
ラディは問いかけてきた。
「よし、襲うぞ!!」
拾わたのは盗賊団だった。そして俺は盗賊だ。
「うらああああああ!!!!」
五人いる仲間たちがいっせいに襲った。
「何奴か!」
騎士は叫んだ。遠目でわからなかったが、この騎士は相当な老人だった。槍は短く剣のような長さしかない。動きは鈍く鎧を着ているだけで精一杯のようだった。
「ひいいいぃぃ」
馬車の御者は手綱を引いて馬を止めた。すると一目散に逃げた。
「お、臆病者がっ!!」
老騎士はうろたえていた。
「へへへ、観念しな!」
俺たちは騎士を取り囲んで馬から引きずり下ろした。それでも騎士は戦う姿勢を崩さなかった。
「よし、ラディ! やっちまいな!!」
そう俺が言うと、身の丈ほどの大剣を持つラディが老騎士の前へ立ちふさがった。
俺と仲間たちは円て囲むようにして一騎討ちを観戦した。
「やれ! ラディ!! 殺せ!!」
そんな歓声ばかりが聞こえ始める。
「下郎と一騎打ちなぞ……ワシもここまで落ちたか……」
「落ちたのは馬だろ!」
ラディはそう言うと大剣を振り下ろした。
力の差は歴然だった。あまりにも差がありすぎるので、なんだか老騎士が哀れになった。皆は熱中しているが、俺は歓声も上げられなくなった。
「やめてくださいっ!」
女の声だった。とてもきれいな、透き通った声だった。
馬車から降りてきたのは、それは美しい少女だった。透き通った白い肌ときれいな金色の髪は物語に出てくるお姫様そのものだった。胸は無いが。
気丈に振る舞おうと背筋をピンと伸ばし無い胸を張ってこちらに歩いてきた。それでも、小刻みに体は震えていて、視線も定まらないでいた。あまりにも痛々しくて、可愛そうで、そんな少女が老騎士の前に立ち両腕を広げて庇う様は、それはそれは哀れなものだった。
「じぃやを殺すというのなら、私からにしなさいっ!!」
「ひ、ひめさま……」
ポロポロと涙を流す少女を前にして、ラディもこれには困ったようで、剣を鞘に収めて、頭をポリポリと掻いた。
「ハヤトぉ……どうするよこれ……」 たまらずラディが俺に助けを求めてきた。
「バカヤロゥ……俺たちは泣く子も黙るレナード盗賊団だぞ!! おめぇ、こんな……こんなの……どうすりゃいいんだよぉ……」
「レナード団長は死んじまったし、泣く子供なんぞ黙らせたこともないけどな」
「くそぉ……おい、じいさんよぉ! 子供をこんな危ない場所に連れだしちゃ駄目じゃねえかよぉ!」
「盗賊に説教される云われは無いわい!!」
おっしゃるとおり、なにも言い返せなかった。
仲間たちも俺とラディと同じようにうろたえていた。いくら盗み、物取り、時には人殺しもする俺たちにもみそっかす程度の良心はあるようだ。
長い沈黙の中、俺は凄まじくいいアイディアを思いついた。
「あんたら、貴族だろ? その身なりに騎士も付いてるし、嬢ちゃんちょっとお? 父さんに頼んで、お金、くれるかなぁ?」
「なるほど、身代金か! ハヤトさん、お主も悪よのぉ……」
暗く淀んできた仲間たちにもようやく笑顔が戻った。
「そんな金、あるわけ無いじゃろ……」
老騎士はうつむきながらつぶやいた。
「おいおい、いくら貧乏貴族でも何もないってわけじゃないだろ? その鎧だってあるし、嬢ちゃんの衣服を奪うのもいい。領地に帰れば食料だってあるはずだ」
「ふん、この鎧か……欲しければくれてやるわい」
そういって爺さんは鎧を脱ぐと俺達の前へ放り投げた。
「へへへ、関心関心……ん?」
遠目ではわからなかったが、手にとった黒い鎧は鼻に近づけずとも、ひどく強い錆の臭いがした。
「おいおい、爺さん傭兵かなにかか?」
錆びた鎧を黒く塗って誤魔化すのは金のない騎士崩れがよく使う手なのだ。
「我々はタキトゥス王国の者だ……」
老騎士が言ったその言葉にラディはえらく狼狽した。
「なんだって!! やべぇ、やべぇぞハヤト……」
タキトゥス王国、聞かない名だな。いや、そもそもこの世界の国家なんてほとんど知らないな。二年もいるのに今いるこの国の名前も知らないのだから。
「どこ?」
「ここ! 俺達のいるこの国だよ!!」
「へぇ〜、じゃあ、この嬢ちゃんはこの国の王女様ってことか?」
王女、と言うには質素な服装だった。生地も縫製も良いものであることは一目見ればわかるが、それでもこの国最上位の人間が着るには質素なものだ。
「冗談言うなよ〜王族がこんな護衛で出歩く分けないだろ〜」
「本当になにも知らないんだな……」
皆があまりにも不思議そうに見るものだから、なんだか腹が立ってきた。
「な、なんだよ! もったいぶらずに教えてくれよ!」
「タキトゥス王国、巷じゃタキトゥス共和王国って呼ばれている、とんでもなく王家が貧乏な国だ」
「えぇ!? というか、なんだよ共和王国って。おもっくそ矛盾してるじゃないか!」
「共和ってのは貴族達が王様を尻目に好き勝手しているって揶揄だ。本当に共和制を敷いているってわけじゃない」
「へぇ……でもよ、曲がりなりにも王族だろ? 俺たちに払う金ぐらいは……」
「ないな」
「んな、馬鹿な話が……」
「あるんだよ! むしろ公爵、いや男爵……いや、爵位なしの領主でもいい、そっちのほうがあるだろうな。いやむしろ、今の状況なら身代金なんて関係ないんだ」
「はぁ? 話が飛びすぎて何言ってるのかわからんぞ」
「これも馬鹿な話なんだがな、タキトゥスの王族はよく誘拐されるんだ。俺達みたいな盗賊にな。んで、それを……まあ名目上だが、家臣である貴族共が助ける。武勲になるからな。そんなことがもう何度もあって、王家はもう貴族に渡す褒美の土地もない有様なんだ」
「そんな、馬鹿な話があるか!」
「あるんだよ……」
あまりにもおかしな話に笑っていいのか困っていいのか分からなくなってしまった。
「だ、だかよぉ……王家にはまともな領地も無いんだろう? 報奨がないのなら貴族共は動かないんじゃあないか?」
「従騎士や騎士に叙勲されたての若武者には格好の武勲だ」
「まじかよ……」
「あまりにも実入りが悪いんで大抵の盗賊は襲わない。襲うのは他国からの流れ者か……俺達みたいな馬鹿ぐらいだ」
何ということだ。順風満帆な盗賊生活もここへ来てとんでもないことになってしまった。
「ど、どうする? 逃げるか……だかよぉ、もう食料も何も無いんだぜ?」
「……」
ラディは黙ってしまった。
「とにかく、身ぐるみだけは剥がしちまうか……」
「そんなことをすれば、わたしは全貴族にあなた達の追討を命じます」
先程まで震えていたはずの少女の目は自信に満ち溢れたものに変わっていた。
「なっ!?」
「死なば諸共、です……」
「ひ、ひめさま……?」
老騎士は驚いた顔をして固まった。しかしそれは俺たちも同様だった。
「おいおい、お付の老騎士だってうろたえてるじゃないか! やめとけやめとけ、俺たちを困らせるのはやめとけ!」
「あなた達は奇貨です。王家の、いや……わたしたちの村を救うのはあなた達をおいて他にいません……」
少女は立ち上がり、俺の前へ向かってきた。
「我が名は、ラーレンティア・タキトゥス=レントゥルス。あなた達を傭兵として雇いたいのです」