ムーンイズデッド
SF作品を描くのは初めてです。結局のところ想像でしか無いのでわからないですが、フィクション世界の人間もやはり人間であることは間違い無いので、こんな風だったらいいなと思います。
「ムーンイズデッド。月は死にました」
その日、世界中の人間が月が死んだことを知った。
そんな日も変わらず僕は、今はもう誰も住んでない地球という星をレンズ越しに眺めていた。
♢
人類が住む土地を求めて月に進出して早数百年。初めの頃は少ないながらも地球に人は住んでいたが、今やもう地球に住んでいた経験がある人間は現存しない。地球が人の住める星でなくなってからは、月ではなくもっと豊かな別の星に行ってしまった。
ちょうど一年前、国の偉い人がテレビで月が死んだことを知らせた。月からの退去はすぐに始まり、およそ一年後の今日、最後の人類を乗せた船が出発する。
「準備できた?もうすぐ荷物の引き渡しだからね!」
「うん、あとはこれを箱に詰めるだけだから」
昔買ってもらった天体望遠鏡。月を去る最後の日も変わらず地球を見ている。
まだ汚染されていない頃の地球は青く、緑に包まれ色鮮やかな星だったらしい。
「今やもう見る影もない...か」
人類が最後に見る地球は色褪せた黒と灰色の星。
しかし、だからと言って悲しいとか寂しいとかそんな気持ちではない。なんとも思わない。
天体望遠鏡を解体して箱に詰める。ちょうど詰め終わったタイミングで運送業者が来たみたいだ。
どんどんと家の中が空っぽになっていく。おそらく、地球からも同じ様に人が消えていったんだろう。
地球では、月はたびたび美の象徴とされていたらしい。僕はそれほど美しいと思ったことはないけれど。
多少の色はある。ただ、それはドームの中で人工的に栽培された植物で、月の景観を色鮮やかというにはあまりにも無謀だった。それに、それは後付けであって本来の月の姿ではない。昔の人たちは何もない月こそ美しいと、そう表現したのだろう。
「そろそろ私たちも行くわよ」
「うん...」
何も無くなった家を出る。もう二度とここに戻ってくることはない。
「ねぇ、母さん」
「どうしたの?」
「なんで僕らは最後まで月に残ったのかな?」
地球が滅ぶその直前まで、最後まで地球に残ろうとした人たちがいたらしい。僕はどうしてもその気持ちを理解することができなかった。自分たちにとって住みやすい土地の方がよっぽど安心できるに決まってるからだ。
「んー、あんたが毎日してることに答えがあると思うけど」
「どういうこと?」
結局、母さんが答えを教えてくれることは無いまま船着場まで来た。
最後とはいえかなり多くの人が乗り込んで行く。皆同じ気持ちで残っていたのだろうか。
アナウンスの後、音も立てずに船は離陸した。
窓から小さくなっていく月を眺める。
「あぁ、そうか!」
僕はその時初めて月を見た、知った。
月を見て美しいと思うことは地球に住む者だけの特権だったのだ。逆も然り、荒廃した地球を最後まで見ていられるのも月に残った者だけの特権なのだ。
月の外観を肉眼で見るのは最初で最後になるだろう。月の最後の姿を焼き付ける様に、瞬きもせずに眺める。
最後まで地球に残った人たちもきっと同じだったに違いない。
ようやく僕は、地球の人たちが月に抱いた幻想を理解することができたのだ。
読んでいただきありがとうございます。よければ評価をよろしくお願いします。他にも作品投稿してますのでこの作品に興味がございましたらそちらもよろしくお願いします。