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ふたつの相談(作戦会議につき)

 媚薬を盛ったウィリスを心配していたけれど、あまりウィリスのキャラも変わってないみたいでほっとした。

 ゲーム内では、やたらとアデリナと媚薬を盛ったキャラがいちゃいちゃしていたから、いったいどんな劇物を盛ったんだとアデリナのヘイトは溜まる一方だったけれど、ただ盛った相手のことを肯定してくれる以外は、ほとんど変わらないみたい。そういえば自分で飲んでみせたジュゼッペも私のことを肯定する以外はほとんど変わってなかったから、媚薬を盛っても性格が変わるほど入れ込むことがないんでしょう。

 そこに心底ほっとしつつ、次の作戦を考えないといけない。

 グローセ・ベーアの人数は、全員で六人。ふたりの投票は阻止したとしても、残りふたりの投票を阻止しないことには、アレクのグローセ・ベーア行きを阻止できないんだ。

 それにそもそも、一年もある。いきなり初期からグローセ・ベーアの会議が成立しないとなったら怪しまれるから、私の存在がアレクや他のグローセ・ベーアにばれる可能性も高まるんだ。となったら、次に媚薬を盛るのは、アレクがひとりを落としたところを狙ったほうがいいのかもしれない。

 私はシュタイナーとウィリスに「また遊びに参りますから。私のことはグローセ・ベーアの人たちにはおっしゃらないで」と伝えて、自分の寮へと戻ることにした。

 となったら、アレクの監視が肝になってくるなあ。

 落としたいふたりには目星が付いているものの、派手に動いてアレクに怪しまれたら最後、私が学問所追放になりかねないし……。

 ひとりで考えていたら。


「やあ、フロイライン。おめでとうおめでとう!」

「キャッ!?」


 いきなり寮へ向かう道の木からプラーンとジュゼッペがぶら下がってきたのだ。

 そういえばこいつ、人が大変な中で今までどこにいたんだ……!


「なにがおめでたいんですの! こっちはもう大変だったんですからね! どこにいらっしゃったの!?」

「はっはっはっはっは、ちょーっと研究に興が乗ってしまってねえ! それより、早速グローセ・ベーアをふたりほど陥落させたみたいじゃないかあ! これだけ早く落とせるとは、残りのグローセ・ベーアを陥落されるのも時間の問題だねえ! お見事!」

「……褒め過ぎですわ。そもそも盛ったのはひとりだけで、残りひとりは利害が一致しただけですもの」

「はっはっは、それも君の話術のおかげだろう? で、浮かない顔だねえ。またなにか困ったことがあるのかなあ、アデリナ?」


 こいつ、自分が錬金術の研究を心置きなくするために、私のことを囮に使ったんじゃないだろうな。相変わらずのイラッとする感覚をどうにか誤魔化しつつ、「相談がありますの」と口火を切る。


「相談? なにかなあ? できる限り君の願いは叶えたいところではあるけれど」

「まあ、ふたつほどですわね。ひとつはシュタイナーの妹さんのこと。彼が錬金術に傾倒していたのは、妹さんの治療のためですもの。それが原因で、教会の使徒のウィリスと揉めていましたけど、今は媚薬のおかげで落ち着いて、ふたりの仲は修復しましたわ。ですけど、シュタイナーの妹さんにまたなにかがあったら……そのときはまたふたりの仲に亀裂が生じ兼ねません。彼女の治療について、なにか知恵はありませんの?」


 うちができることは、はっきり言ってお金がたくさんあることくらいだ。錬金術のことについては本気でちんぷんかんぷんなんだから、それに傾倒しているジュゼッペ以外に相談することができない。

 ジュゼッペは「ふんふん」と頷くと、珍しく大変真面目な顔をして、普段の高笑いしている表情はなりを潜めている。


「難しいねえ……元々彼の家は、我が国でも有数の名医を輩出する家柄さ。その彼らが無理と判断して、錬金術に傾倒しているといういきさつかあ……ねえ、君はどうして教会が錬金術を敵視していると思うんだい?」

「え? 問答……ですの? そうですわね……神以外の奇跡は認めない、異端、だからでしょうか?」

「まあ、半分は正解で半分は間違いだね。教会が錬金術を敵視しているのは、はっきり言って異端に見えるからだ。だけれど、錬金術のほとんどは、奇跡にしか見えない、昔からある技術さ」

「ええっと……?」


 研究職の人って、どうしてどいつもこいつもまどろっこしいしゃべり方をするんだろう。要点だけ話せ、って思うんだけれど。どうもジュゼッペはなにかしら言いたいことがあるから、こんな変ちくりんなしゃべり方をしているみたい。

 私は少しだけ考えて……ふと思いつく。


「活版印刷がなかった時代に、本の量産はできない……とか?」

「そう、それさあ。本がなかった時代は、全部が全部丸暗記か口伝えしか物事の伝達手段はなかった。でも今は本に情報を圧縮するおかげで、下手に全部覚えることが必要なくなった。これが奇跡にしか見えない技術ってものさ。おそらく彼の妹さんも、医療技術が進歩すれば治るけれど、今ある方法では治らない。だから錬金術に頼っている。たしかに錬金術で技術を推し進めることは可能だけれど、それを教会は果たして許可するかなという話さ」


 なんとなく理解ができた。

 昔は結核は不死の病と呼ばれていたけれど、私が元いた世界では、既に治療法は確立されていたから、もう不死の病ではなかった。

 でも結核がまだ完治できない時代の人からしてみれば、それは奇跡にしか見えない。


「結論だけ伺いますけれど、錬金術でシュタイナーの妹さんの治療は可能ですの?」

「症状まではまだわからないけれど、彼が治療方法を模索できている今の段階なら、まだ治療可能だと思うよ。もっとも、診てみないことには僕もさっぱりだけどね。問題は、ここですぐ治療してしまったら、彼は教会に異端だと判断されて処罰が下されかねないということだ」

「な、なら! これをどうやって教会に異端技術じゃないと証明すればいいんですの!?」

「それこそ、これの力で教会を黙らすしかないだろうねえ」


 ジュゼッペは指で円を描いた。

 マネー イズ パワー。

 それこそ、うちの出番じゃねえか。


「……わかりましたわ。金なら実家に言っていくらでも出しましょう。これで、彼の妹さんの問題を解決……ってことで、よろしいですわね?」

「ふむふむ。まあ、それが解決方法としては妥当だろうね。で、もうひとつの相談ってなにかな?」


 ジュゼッペに尋ねられて、私は言葉をまとめる。

 これもまた、重要なことなのだから。


「これからの方針ですわ。いきなりグローセ・ベーアの会議が成立しなくなれば、あちらもおかしいと捜査をはじめるかと思います。だから今の内は偵察に徹したいですけれど、アレクが三人落としてしまったら困ります。彼女の動きを偵察しておきたいんですが」

「ああ、それなら明日の倶楽部見学でフェンシング倶楽部にでも見学に行けばいいよ」

「……フェンシング倶楽部、ですの?」


 そこにはたしかに、グローセ・ベーアのリーダー格、ルドルフが所属しているはずだけれど。アレクはまだ、グローセ・ベーアに接触していないと踏んでいたけれど、もう動いているっていうの?

 ジュゼッペはにやにやしながら言う。


「きっと君も喜ぶ面白いものが見られるはずさ。クラスメイトたちと交流を深めながら、楽しく見学するといいさ」


 うーん、ジュゼッペがなにを思いついたのかはわからないけれど。倶楽部見学は他のグローセ・ベーアの様子も見られるはずだし、なんだったらアレクの動向チェックにはよさそうなイベントだな。

 うん、悪くはないか。


「わかりましたわ。それでは、明日は倶楽部見学へと参りましょう。あなたはどうするおつもりで?」

「ふふふ~、僕を縛るものは~、神でも許さない~」

「あ、お待ちなさい!」


 ジュゼッペはすぐにぶら下がった木をするする登り、あっという間に見えなくなってしまった。……一体どうなってるの、あいつは。

 私はげんなりしつつ、再び歩き出す。

 今は偵察に徹しよう。でも有事の際にすぐ動けるよう、考えて行動しないと。

 ……うう、ゲーム内でただ闇雲に男の尻追いかけている暇があったアデリナが恨めしい。あんた、絶対実家の没落の危機とか考えたこともなかったでしょと、本当にそれだけ。


****


 ジュゼッペは上機嫌に笑っていた。

 木をするすると登ると、この大木の洞が見つかる。そこに身を任せると、ツルーリと滑り台の要領で地下へと滑り落ちることができた。


「ふふふ……可愛いアデリナ。愚かなアデリナ。早速ふたり落としたと思ったら、次は偵察に徹すると……」


 彼女は見ていると面白い。

 錬金術を悪と断定しないところは昔からあったが、前よりも考えるようになったところがある。そこもまた愚かで可愛らしいと思った。

 今は異端と呼ばれ、オカルトと蔑まれるのが錬金術と呼ばれるものだ。

 実際、教会が忌み嫌うだけの理由があるが。


「あの愚かで可愛い子には、まだ知られたくないねえ」


 いくら愚鈍な娘とはいえど、おもちゃにする程度には面白いのだ。そう簡単に離れられたら困ってしまう。

 彼は地下で今日も研究をするのだ。

 錬金術は、今日もまた面白い。

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