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パンプキン・エニック

「よし! これなら大丈夫だろ!」

「えぇ。スクーピーの顔の傷がまさかこんな形で役に立つとは、これはもしかしてスクーピーは天に愛されているのかもしれませんね?」

「そりゃ当然だろ? スクーピーだぞ?」

「そうでした」


 朝食を済ませると、早速外出の為スクーピーに変装を施した。と言っても、家にあったもので適当に繕った。


 青と白のストライプのワンピースに、少し大きめの麦わら帽子に髪を隠し、極め付けにスクーピーにはサイズが大き過ぎるおもちゃの星型の色眼鏡。すると顔の傷が眼鏡と良く似合い、まるで魔王の娘のような見た目になった。これによりスクーピーは、エイダールのポスターにでも載るようなファンキーな子供に変わった。


「でもですね。ここまで行くと、逆に今度はリーパーさんもある程度合わせなければいけないんじゃないですか?」

「え? まぁ、確かにそうだな」


 ちょっとお金持ちの家の子のようなスクーピーを見て、エリックの言うその気持ちが分かった。しかし残念ながらそんなお洒落な服など持っておらず、眉間に皺が寄ってしまった。


「でもなぁ……」


 スクーピーにはまだお洒落などという感覚は芽生えてはいないだろう。だが、ダサいお父さんは嫌いだという話を思い出すと、なんとかしてカッコいいお父さんになりたかった。しかし服が無い!


「私のを着ますか?」

「え~? う~ん……」


 エリックは職業柄、安いがそれらしい服を三着持っていた。というかそれしか持っていなかった。しかしそれはどう見てもお洒落というより手品師で、確かに背広ではあるが色がヤバイ。逆にあれを着てスクーピーを連れ歩けば、違う意味での防犯にはなるが……


「いや。だったら俺、襟足伸ばすわ!」

「なんでですか!?」

「いやだってさ、俺カーゴパンツかスウェットくらいしか持ってないから、それだったらスウェットに合わせようかと思って」

「ええっ!? それはやめて下さい!」

「えっ! なんで!?」


 エイダールにはヤンキーというファッションがある。それは部屋着にも関わらずアグレッシブに決まり、とても強く見えるというスタイルだ。正にスクーピーを守るという役目を担う俺にはピッタリのスタイルだった。

 

「スクーピーは将来貴族になる子なんですよ? そんな野蛮な格好はやめて下さい!」


 ええっ!? 俺めっちゃカッコいいと思ってたのに!? 何汚らわしいみたいな感じで言っちゃってんの!?


「ほら、私のスーツを貸しますから、これを着て下さい」

「え~」

「え~じゃありませんよ! 大体部屋着で出歩こうなんて言語道断ですよ! 誰が洗濯すると思ってるんですか!」

「……はい。すみません……」


 こうして我が家は、ご近所さんに奇抜な芸術家の家柄だと噂が立つ事になってしまう。




 

 程良い湿気、心地良い日差し。狭い空には青空が広がり、建物だらけの街並みでも爽やかさがある。しかしエイダール自体の面積は狭いのか、朝からアーケード街には人、人、人で混み合っている。そんなあまりスクーピーには良くない環境だったが、それが幸いしてスクーピーの正体もバレず、今日もエリックはそれなりに客を捕まえていた。


「貴方の選んだカードはこれですか?」

「い、いえ……違います」

「あれ? おかしいですね? あ、そういう事ですか。どうやら貴方が美しいから、カードが恥ずかしがっているようです。ですが慌てて隠れた為……」

「ええっ! 凄いっ!」

「どうですか? これが貴方の選んだカードですか?」

「はい!」


 今日も相変わらず冴えわたるエリックは、一度ワザとに外れたと思わせ、トランプを広げると一枚だけ当たりのカードが表になっているという手品で客を楽しませている。


「では次は、そちらのお嬢さんにお願いしてもよろしいでしょうか?」

「え? あ、はい」


 今捕まえている三人の若い女性には手応えを感じたのか、エリックは逃がさぬように間髪入れず攻める。

 エリックはプロである以上、稼げる客を見つけるとガンガン攻める。それは金だけでの話では無く、その客が起こすリアクションで新たな集客が見込めるとなると尚更だ。

 普段は頼めばいくらでも俺には手品を見せてくれるエリックだが、こういう時の姿は正に獲物を喰らう職人の様だった。

 そんなエリックの勇姿だったが、当のスクーピーは初めて見る物が多く、もうエリックなど見てはいなかった。


「スクーピーほら、エリック頑張ってるよ」

「…………」


 多すぎる情報量に目移りしてしまうのか、もう俺が話し掛けても遠くを見つめている。しかしスクーピーは子供。仕方が無いよね?

 それでも変装のお陰でエインフェリアとは知られる事はないようで、俺としては安心していた。

 そんな中、とうとう捕まえていた女性たちに逃げられてしまったのか、三人は去って行ってしまった。そこで休憩がてらエリックに声を掛ける事にした。


「どうだ調子は?」

「今日は大分良いですよ。もう五千円近く稼ぎましたからね」

「えっ!」


 この短時間でもう五千円!? 今日二万超えんじゃね?


「この調子なら五万近くいくかもしれませんよ?」


 それは夢見すぎだろ!? 俺の一週間何だったの!?


 俺がこっちに来てからエリックと一緒に手品をするようになってからは、最高日収は二万三千円だった。それだけでも驚異なのに、ここに来てまさかのダブルスコア! 確かに今日パフォーマンスしている場所は初めての場所だったが、それでもダブルスコア!? 


「これはもしかしてスクーピーのお陰かもしれませんよ? この子は正に幸運の女神ですから」


 それを言われると、例え俺の一週間を上回る収入を言われても仕方が無かった。俺でさえスクーピーが来てから、漲るパワーに無敵になったんじゃないかと錯覚するほど活力に溢れていたからだ。ただ、悪魔であるエリックが幸運の女神を口にするのはどうかと思うが……


「そうだな。じゃあちょっと俺、スクーピー連れてブラブラしてくる」

「えっ!?」

「いやだってさ、スクーピーさっきからあちこち見ててさ、ちょっと散歩に連れてきたいんだよ」

「ええっ!?」

「だってほら、スクーピーってこういう所初めてじゃん? だから勉強も兼ねてちょっと行ってくる。昼には戻ってくるから安心しろよ」

「昼!? そんなにですか!?」

「え? いや多分そんなには掛からないと思うけど、もしかしたらだよ。昼は家で飯食うんだろ?」

「いや、まぁ……」

「じゃあ頑張って稼げよ。じゃあちょっと行ってくる」

「え……はい。気を付けて行って下さいよ」

「あぁ」


 エリックが寂しがる気持ちは分かる。しかしスクーピーに人生経験を積ませることの方が大事だ。そんなわけでエリックを置き去りにして俺とスクーピーはブラブラ歩く事にした。


「スクーピー、どっち行きたい?」

「…………あっち」


 スクーピーは初めての環境にはまだ慣れていないようで、いつもの元気な声を上げない。それでも好奇心はあるようでモジモジ唇を触りながらも、向かいたい方向を指さした。


「よし! じゃあ行ってみようか」

「……うん」


 子供の好奇心というのは本当に凄い。もし俺だったら自分よりも遥かに大きな体格が犇めく場所にいたら恐怖してしまう。恐らく子供というのは毎日が冒険なのだろう。スクーピーを見ていてそう思った。のだが、いざ参らんと歩き出すと突然スクーピーが足を止めた。


「どうしたスクーピー? 何かあったのか?」

「……エニックは?」


 スクーピーはエリックの事をエニックと呼ぶ。ちなみに最初は、ハンフリー・エリックのハンフリーをパンプキンと呼んでいた。


「え? あぁ、エリックはまだお仕事があるんだって」

「……じゃあここにいる」

「え? でもあっち見に行きたいんじゃないのか?」

「エニックかわいそう」


 なんという事だ! 俺が仕事に行くときは「いってらっしゃい」って無残に見送るのに、なんでパンプキンは駄目なの!? ずるく無い!?

 しかし俺も大人。ここはスクーピーの気持ちを汲む事にした。


「そうか。じゃあエリックが終わるまでもうちょっと頑張ろうか? そしたら後で何かおもちゃ買って上げるから」

「うん!」


 完全な敗北だった。それでもエリックを想いスクーピーが残りたい旨を伝えるとエリックは満面の笑みを浮かべ、その後パワーをチャージしたエリックが午前中で一万六千円もの稼ぎを叩き出した事で、負けを認めざるを得なかった。


 活動報告で何か書きたい。しかし活動報告で書くほどでもないのでここで書きます。

 大分書き溜めも終盤に来たのですが、ここに来て私の想定から外れ始めました。元々プロットがあるわけでは無いのですが、いつもの迷走が始まりました。ですが小説の神様はプロットの外にいるらしいのでこのまま行きます。それともう一つ、投稿時間を疎らにしたいのですが、どうしても同じ時間帯が並ぶとコレクションしたくなります。というわけです。

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