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スクーピー・A・シャロン

「なぁスク……スクーピー? スクーピーは新しい名前欲しくないか?」

「…………」


 文句を垂れながらも温もりを感じさせたエリックが調理に戻ると、エリックはああ入っているが、俺としてはもう手放す気の無いこの子にどうしても名前を付けて上げたかった。

 しかしこの子にとっては俺が何を伝えたいのかが分からないようで、不思議そうに頭をキョロキョロさせた。


「あぁごめん。そうだな……」


 意思が通じないと言うのは難しい。アドラやロンファンも確かにそう言う意味では通じてはいなかったが言葉は通じた。やはり言語によるコミュニケーションというのは凄い。伝えたい事を簡単に表現してくれる。あ、でも、よくよく考えたら俺今までよくアドラ達と会話出来てた。俺って実は凄い?


「じゃあ……シャイ……シャロンとかどう? スクーピーはシャロンとか呼ばれたい?」


 何となくシャが入れば美しい貴族っぽいと思い、適当な名前を呼んでみた。すると全く俺が何を伝えたいのかが分からないようで、スクーピーは可愛らしく眉を顰めた。


「あ~……名前。スクーピーの新しい名前。……う~ん」


 アドラ、いや、ロンファンならここまで言えばなんとなく分かってくれる。しかし言語自体まともに得ていないスクーピーは、ずっと眉間に皺を寄せている。


 言葉って難しいね! スクーピー全く分かってないよ! でもその顔はもっと見てたい!


 エインフェリアの成せる業なのか、最初は醜いとまで思った顔の傷が今では逆に愛らしい。そしてやはり子供の、それも女の子には明るい表情が似合い、すっかり元気を取り戻したスクーピーは猛烈な可愛らしさを放つ。

 しかしこのままではいつまで経ってもスクーピーはスクーピーのままだ。そこで、ジェスチャーで伝える作戦に切り替えた。


「これは?」


 広げた自分の手を指差し、スクーピーに問いかけた。するとスクーピーは少し考え、元気な声を上げる。


「て!」

「そう!」


 超かわいい! これはもうエインフェリアとかじゃなくて子供の成せる業だよ!


 子供である以上根暗なんて子は存在しないようで、初めて出会った時に見せた暗さは全く無く、本来の元気を取り戻したスクーピーの力は強烈だった。そしてまだ乾ききっていない髪だが、キラキラ輝く柔らかい白髪がかぶり付きたくなる。


「じゃあこれは?」


 このまま良い流れに持っていくため、次にスクーピーでも分かるであろう歯を指さした。するとまたあの眩しい表情で答える。


「は!」

「そう! じゃあこれは?」


 この調子なら行けると思い、そのままの流れで舌を出した。その瞬間人生一番と言って良いほどの眩しさが俺を襲った。


「キャハハハハッ!」


 さすが子供だけあってツボは思わぬ所にあるらしく、舌を出すとスクーピーは嬉しそうに大笑いした。それはこの薄汚い我が家が天国にさえ見えるほど眩しく、自分が死んだのかとさえ思うほどだった。


「じゃあじゃあこれは?」

「キャハハハハッ!」


 もうこうなると名前などどうでも良かった。ただスクーピーの笑顔を見たくて鼻に指を突っ込んだ。

 その笑い声は心地良く、体中に蔓延るストレスを隅々まで洗い流してくれるような安らぎを与えてくれる。そして俺はある事に気付いた。それは俺は子供が大好きだという事だ! 

 俺は今まで子供が好きかと聞かれれば、「どちらかといえば」と答えて来た。しかし今断言できる。俺は子供が大好きだ! あっ! これ別にそう言う意味じゃないから! 純粋に子供が好きって意味だから! あっ! だから別にそういう意味じゃなくて……


 そんな事を考えていると、ここで荒んだ大人が割り込んできた。


「ちょっとリーパーさん。あんまり騒がないで下さいよ」

「え? あぁわりぃエリック。つい……」

「ホント頼みますよ? ただでさえエイダールではエインフェリアは嫌われているんですから気を付けて下さいよ」

「あぁ。分かってるよ」


 これだから荒んだ大人は嫌だね~。エリックも輪に入ればいいのに……あ、でもエリックがこの笑顔喰らえば浄化されかねない。


 エプロン姿にお玉を持ち、スクーピーに対してではなく俺に対して文句を言うエリックは、完全にお母さんだった。そして本当に分かってるの? と首を傾げキッチンへ戻る姿はお母さんだった。


「よし! じゃあスクーピー、次はコレ? これはな~んだ?」


 エリックの温かい合いの手も入ったお陰で本来の目的を思い出すと、再びスクーピーに新たな名前を与える為自分の顔を指さし、俺は誰だと尋ねた。しかしここで残念な事に、何故かスクーピーは口を可愛らしく開け答えを探し始めた。


 超ショック! 今世紀最大のショックだよ!


 それでも頑張るスクーピーは、何かを伝えようと必死に俺を指さしてくれる。


 頑張れスクーピー! そうだその調子だ!


 しかしここでスクーピーの動きが止まる。そして目をキョロキョロさせ、次第に表情から力が抜け、立てた人差し指が隠れるように垂れていく! 


 そりゃないっすよスクーピー! あ~ほっぺた触りたい!


「俺! 俺だよ? ほら?」


 負けるわけにはいかなかった。例えスクーピーが諦めても俺は諦めるわけにはいかなかった。そこで必死に自分を指さしアピールを続けた。なのに!


「……ウィーパー?」


 惜しい! いや、この際ウィーパーでも良い!


 しかしここでスクーピーが躊躇うように答えた事から、俺はまだ自分から名乗ってはいなかった事を思い出した。

 恐らくスクーピーはエリックとの会話から俺の名を推測したのだろう。だからあんなに自信無さげに答えた。でも凄くね? この子言葉あんまり分かんないのに良く分かったよ。この子天才じゃね?


「そう! リーパー! 俺の名前はリーパー! 良く分かったなスクーピー!」


 ちょっと修正したが、俺が正解だと褒めるとスクーピーは嬉しそうに体を跳ねさせて喜んだ。


 この子天使やで! 俺は今とんでもない幸運を手に入れてしまったんじゃね!?


 満足そうにするスクーピーに、雰囲気としても流れとしても最高の空気が出来上がった。そこでいよいよ本題に入る為、ここでスクーピーを指さす事にした。しかし……


「じゃあこれは?」

「スクーピー!」


 即答だった。今まで作り上げた全てが一瞬にして無に帰した瞬間だった。それでも楽しそうに答えるスクーピーの前では、残念さなど一瞬にして無に帰した。しかしやっぱりこのままで良いわけがない! 


「そう! でも違う!」


 こういう時のリアクションは人間よりも動物に近いようで、違うと言った瞬間スクーピーはまるでロンファンのようにパッと口を開けて驚いた。だが可愛さは比では無かった。


「スクーピーは今日から違う名前に変えよう? スクーピーは名前じゃないんだって」

「……スクーピー!」

「…………よし! お前はスクーピーだ!」


 こうしてスクーピーは新たな名前を得た。ただこれは決して俺が面倒臭くなったわけではない。もしかしたらスクーピーという名は、例え親が差別的な意味で呼んでいたとしても、スクーピーにとっては唯一親から貰ったかけがえのない大切な宝物だと思ったからだ。だから呼び方はそのままでも、小さく美しい子という意味を込め、今からスクーピーと呼ぶ事にした。そしてさらにより素晴らしい名と思い、スクーピー・エー・シャロンという名を勝手に授けた。ちなみにエーは、アルバインのAである。


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