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社会人の格

「大変お世話になりました。本当にありがとう御座います」


 シェオールへ帰るためエイダールの関所に到着すると、俺達はセルディオさん夫妻とツクモと合流した。ゴードンさんは残念ながら今日は外せない仕事の為いなかったが、前日に別れを告げていた。

 ちなみにゴードンさんは魔族だけあって、あれだけの大怪我を負ってももうピンピンしていた。

 

「いえ。こちらこそ大変お世話になりました。エリックさん達のお陰で私達は大切な事を学びました。本当にありがとう御座いました」


 スクーピーの誘拐事件をきっかけに、俺達はエイダールに来た経緯をセルディオさん達に全て話した。それを知ったセルディオさんは後援会の方々に寄付を募り、資金を調達してくれた。その上プルフラムの外までの汽車まで手配してくれ、俺達は本当に世話になった。

 そんな俺達を代表して、エリックがセルディオさんと奥さんに感謝を告げる。


「いえ。こちらこそ本当にお世話になりました」

「いえいえ。またエイダールにお見えになる事がありましたら、その時はいつでもお声を掛けて下さい」

「はい。その時は必ずお伺いさせて頂きます。後援会の方々にもどうぞよろしくお伝え下さい」

「はい」


 エリックは事件以降、事件解決のお礼と仕事のドタキャンの償いをするため、暇を見てはセルディオさんの元を訪れボランティア活動に参加していた。そこでさらに絆を深め合った二人は、言葉こそ社交辞令だったが、親友との別れを惜しむようだった。


「リーパーさんにも大変お世話になりました。次にお会いするときはまた元気なお姿を見せて下さい」

「いえ。本当にお世話になりました。セルディオさん達がいなければ俺は足どころかぐちゃぐちゃになってましたから」


 未だ松葉杖を付く俺を見て気遣うセルディオさんに、特に気にしてはいないと安心させるため、冗談交じりに包帯で固められた足を見せ言った。


「そうですか。でもリーパーさんならバラバラになっても大丈夫じゃないですか?」

「いや、さすがにそれは無理ですよ」


 俺も数度お礼にセルディオさんが行う朝立ちという活動にボランティアで参加した。そしてその後喫茶店などでセルディオさんや他のボランティアの方々と朝食を摂る中で、俺もセルディオさんと冗談を言い合えるほどの仲になった。


「まぁでも、本当に無事で何よりです。またお会いできることを楽しみにしています」

「はい。その時はセルディオさんも上院議員になっていて下さいよ?」

「じゃあ最低でも後十五年はお会いできませんね」


 議員にも色々と手順があるようで、区議会議員や市議会議員などで知識や経験を高め、実績を上げ地盤を固めながら上を目指していく事が大切らしい。それでも十五年は長過ぎね!?


「じゃあもう一生会う事はなさそうですね?」

「そんな事言わないで下さいよ!」


 セルディオさんは時折冗談を本気で捕らえるようなエリックと似たような性格をしている。だがそれがまた愛嬌があり、親しみを感じる。


「また一緒に朝食を食べましょう。その時はまだ私は区議会議員かもしれませんが、今よりは立派な先生と呼ばれる議員になっていますから」


 しかしさすがは議員だけあって、ここ一番で雰囲気を引き締める術は心得ていて、手を差し出す姿はエリックとは全く異なった。


「えぇ。じゃあその時は先生と呼ばせてもらいます」

「はい。よろしくお願いします」


 セルディオさんと交わした握手は、とても力強く希望に溢れていた。


「エリックさん、リーパーさん、スクーピーちゃん、本当にありがとう御座いました。貴方方のお陰でセルディオ・セバスチャンは、議員としてまた一つ大きくなることができました。本当にありがとう御座います」


 セルディオさんとの挨拶が終わると、流石は議員の奥さん、それを見計らい手を合わせ拝むように頭を下げる。その姿は感謝を体現したかのように美しい。正に俺達がスクーピーに学ばせたい形そのものだった。


「いえ、感謝するのはこちらの方です。ありがとう御座いました。もしセルディオさん達がいなければ、スクーピーを救うどころか私やリーパーさんもただでは済みませんでしたから。本当にありがとう御座います」


 エリックがそう返すと、奥さんは手を合わせ小さく頭を下げた。それがまた上品で、嫌味を感じさせない自然体だった。何よりあの事件以降最も成長したのが奥さんだけに、今まで崇拝のように見えていた拝みにはもはや貫禄すらあった。

 そして成長著しい奥さんは、頭の低い男性陣と比べこちらこそこちらこその流れには持って行かず、そのままの流れでスクーピーに跪き手を合わせた。


「スクーピーちゃん。最後におばさんのお願い聞いてもらえる?」


 エインフェリアを崇める姿勢は変わってはいないが、飛躍的な成長を見せる奥さんは、スクーピーを崇拝の存在ではなく育むべき存在として接するようになった。


「うん、いいよ」


 そんな奥さんの自然な接し方は次第にスクーピーの警戒心を解き、今ではスクーピーの中では親戚のおばさんと変らない存在となっていた。


「じゃあおばさんにスクーピーちゃんのお顔を見せて?」

「うん」


 既にスクーピーにとってお面はファッションの一部と化しているようで、こんな時でもお面を外さないスクーピーは、奥さんの言葉を聞くと少し照れたような返事をして素顔を見せた。


「ありがとうスクーピーちゃん。はい飴玉」

「ありがとう~!」


 スクーピーの顔を見た奥さんはもう崇めるような事はせず、手を合わせ感謝を告げるといつものように飴玉をプレゼントした。そしてスクーピーもいつものようにお礼を言って飴玉を受け取ると、自分で袋から飴玉を出し口に入れ、速攻でお面を戻した。


 そんな現金なスクーピーの態度にも関わらず、誰一人一切咎める事無く、皆が優しい笑みを零した。

 その時間はとても温かく、まるでここにいる全員が家族のように思えるような時間だった。


「ツクモも今日は本当にありがとうな。わざわざ来てくれて」


 セルディオさん夫妻への挨拶が終わり、二人がスクーピーと会話を始めると、最後にツクモと別れを惜しんだ。のはずだったのだが……


「別にいいよ。それより、私も一緒にシェオールについて行っていい?」

「え?」


 突然のツクモの言葉にはさすがに反応が出来なかった。


「いや、あのさ~。実は私エイダール出ようと思って」

「え?」

「いやなんかさ。この間の件で減給やら降格処分受けちゃって、それだったらもう今の仕事辞める事にしたの」

「はぁ?」


 え? この子何言っちゃってんの? 


「って言うか、実はもう辞職願い出してきちゃったんだよね」


 えっ? 大丈夫なのこの子? 今何かとんでもない事言わなかった?


「だからさ。それならいっその事プルフラム出て冒険者になろうかと思って。キャメロットとかには強ければ誰でも仕事くれる冒険者って仕事あるんでしょ?」


 え? 嘘でしょ? それで小荷物持ってるの? そんな無計画な人生設計ってある? エイダールって教育面しっかりしてるんじゃないの?


「だからさ。私も一緒にあんた達について行こうかと思って。あ、あっちに着いたら後は私一人でなんとかするから、そこは気にしなくて良いから」

「…………」

「ねぇ良いでしょう?」

「駄目に決まってるべや!」

「えっ!? なんで!?」


 突然の俺の怒号に、ツクモはまさかの驚愕の表情を見せた。って言うか俺が驚愕!


「なんでって当たり前だろ! お前会社はなんて言ったんだよ! それに親はなんて言ったんだよ!」

「えっ? いや親は関係無いでしょう? 私もう一人暮らししてるし……」

「じゃあ会社は?」

「いや……勝手に辞表置いて来たから分からない……」


 マジかこいつ! ヤバイね今の若い世代!


「でもあれだけ迷惑かけたら会社だって別に文句言わないと思うよ? どっちかって言ったら『はい、ありがとう御座いました』って思ってるよ?」

「思うわけねぇだろ!」

「えっ! ……ま、まぁとにかく落ち着いて?」

「落ち着けるわけねぇだろ!」


 あれだけ性格がきつく強いツクモなら今まで勝手が効いたのかもしれない。その上まだ十代という事もありほとんど社会経験も無いのだろう。だからこそツクモにとってはこの行動は大して非常識という認識は無いのかもしれない。しかし例え国は違えど社会人として揉まれて来た俺にとってはとても看過出来るものでは無かった。


「どうしたんですかリーパーさん?」


 そんな俺の声に、エリックが心配そうな表情を浮かべ仲裁に入る様にやって来た。


「どうしたもこうしたもねぇよ。ツクモが勝手に会社辞めて俺達と一緒にシェオールに行きたいって言ってんだよ」

「え? それが何か問題でもあったんですか? あっ、旅費はツクモさんが出すんですよね?」


 俺の言葉が足りなかったせいか、エリックは何を熱くなっているんですかという表情を見せた。


「そうじゃねぇよ。こいつ勝手に辞表置いてきて、会社に何も言わないで行こうとしてんだよ」

「えっ!?」


 やはりいくらプルフラムだと言ってもツクモのやり方は常識外れのようで、それを聞くとエリックはあり得ないくらい口と目を丸くした。


「ちょっ、それは本当ですかツクモさん!?」

「え……まぁ……」


 ツクモの中では、エリックは俺よりも遥かに信頼がある社会人のようで、俺の時とは全く異なり、肩を窄めるように返事をした。


「それは駄目ですよツクモさん! 社会にも暗黙のルールがあるんですよ。そんな自分勝手な事をしていては信用を失いますよ」

「……はい」

「もし本当に私達とシェオールへ行きたいのなら、きちんと会社の承諾を得てからにして下さい」


 フリーランスだからこそエリックは社会的信用の大切さを知っている。それは言い換えれば責任という事でもあり、その者の持つ能力と言っても過言ではない。

 信頼は金よりも重く、仕事よりも優先される。それを知らないツクモはもはや社会人とは言えなかった。


「えっ! でももうエリックさん達行っちゃうんでしょ! そんな時間無いよ!」


 エイダールは教育に優れた国だとは聞いていたが、どうやらそれはお勉強の方ばかりで、大切な事は教えないらしい。これだけエリックが重い言葉を投げかけても、ツクモはまだ自分の都合ばかりを口にした。

 これにはさすがに説教が必要だと思った。

 

「ツクモ。今のお前じゃどのみちシェオールに連れて行くわけにはいかない。お前じゃ社会人としてシェオールでさえ全く通用しないぞ」

 

 あれだけの剣技を身に付けたツクモなら、恐らく俺が想像できないくらい過酷な修練に励み、心身共に一流だろう。だがそれはあくまで武術家としての話だ。だからこそ無知が原因でその才能を枯らすには惜しいと思った。


 そんな俺に対し、どうやらツクモは俺を見下しているようでエリックとは違い反論する。


「そんなわけないよ! あんただってハンターとか言うのやってたんでしょ? だったらあんたよりよっぽど強い私が務まらないはずないじゃん!」

「本当にそう思うのか? お前、いくら剣が強くても社会じゃ何の意味も無いぞ」

「そんなわけないじゃん! 実際私会社じゃ五本の指に入るくらい強いんだから!」


 剣の上ではツクモは立派な師に出会えたのだろう。だが社会人としては先輩にすら出会えていない。そんなツクモがとても哀れに見えて来た。


「じゃあ聞くが、お前年間通していくら会社に利益上げた?」

「え?」

「社会ってのはな、強いとか仕事が出来るとかじゃないんだよ。どれだけ稼ぐかなんだよ。お前は本当に自分が貰う給料以上に会社に利益計上してたのか?」

「い、いや……それは……でも私一生懸命やってたんだよ!」


 ツクモのような新人に対し放つ言葉としては辛辣だとは分かっていた。それでもツクモだからこそ敢えて潰す気で厳しい現実を教える事にした。


「一生懸命? じゃあお前が骨折治しに医者の所行ったら、『一生懸命やりましたが、失敗して両腕を切り落とさなきゃなりません。すみません』って言われても、『一生懸命やったんならしょうがないよね』って言えんのか?」

「そ、それは……」

「お前勘違いしてるよ。社会ってのは一生懸命とか真面目なんて奴より、例え年に一日しか仕事しない奴でも、何千何万って利益上げる奴が一番強いんだよ。分かるか? 一番役に立たないのは、お前みたいに恩の一つも返そうともしない奴なんだよ」

「…………」


 恐らく俺が放った言葉は、社会の中では悪魔クラスの攻撃に近いだろう。そんな凶悪な言葉に、いくら無知のツクモでも目を伏せてしまった。


「ツクモ。先ずお前は、今のガードの会社で必要だと思われるだけの存在になれ。それくらいしてからじゃなきゃどこに行っても通用しないぞ? 今みたいに……」


 そこまで言うと、エリックが「もう十分です」とさり気なく俺の前に手を出し止めた。

 その振る舞いはとても静かで、少し悲し気な表情がエリックの優しさを表していた。


「ツクモさん。そういう事です。戦闘においてはツクモさんはとても信頼のおける戦士でも、仕事という戦いの中ではリーパーさんの足元にも及びません。ですがツクモさんなら直ぐに立派な社会人になれます。今は修行だと思い、リーパーさんの言う通り会社が必要だと認める社員を目指して下さい。そしてもしその時でもシェオールへ行きたいと思うのなら、いつでもシェオールを訪れて下さい」

「……はい」


 俺の言葉が本当にツクモの役に立ったのかは分からない。それでもエリックが励ますように肩に手を掛けるとツクモが寂しそうに返事をしたのを見て、この子なら将来必ず立派な社会人になれると思った。


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