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鬼の子ツクモ!

 コンクリートに囲まれた狭い階段には気持ち程度の明かりを灯す電灯。湿気を帯びた空気はカビ臭く、地下へと降りる俺達の忍び足さえ響く。


 エリックがまさかの扉の開き方が分からないという危機を迎え、結局どこに入り口があったかを聞き出し、地面を叩いて音の違いで入り口を見つけ力技で突破した俺達は、いよいよアジトへ潜入を開始した。

 

「止まって下さい」


 狭い階段の為一列に並び降りて行くと、先頭を歩くエリックが手を上げ小さな声で俺達を止めた。


「あの先からテリトリーに入ります。どうやら三名の見張りがいるようなので、ここからは特に注意して下さい」


 エリックが指さす先を見ると、階段の終わりに右から光が差し込む間口が見えた。


「どうする?」

「私に任せて!」

「えっ? ちょっ、狭い!」

「ちょっ! あんた邪魔だから!」


 俺はエリックに聞いたのだが、例え師でも仕事は譲らないタイプらしく、任せてくれと云わんばかりにツクモは前へ出た。しかし俺の後ろに居た為、狭い階段で無理矢理押しのけて前へ出るツクモに、「ちょっとこの子強引じゃない?」と心の奥底で思ってしまった。


「エリックさん。エリックさんの“読み”では三人なのね?」

「えぇ。奥で二人が固まり、一人が手前に立っています」

「分かった、ありがとう。じゃあちょっと待って」


 ツクモには索敵能力があるのか、エリックに数を確認すると自分でも確認するのか、片手で何かを拝むような後姿を見せた。

 その姿は、魔法というより技のようで、初めて見る異国のスタイルに何故かワクワクした。


「エリックさん。ここは私に任せて貰える?」


 索敵が終了したのか、ツクモはこれくらいは容易いという感じで言った。


「えぇ。ただし失敗は許されませんよ?」

「大丈夫。これで失敗してるようじゃ先代に笑われちゃうから」

「そうですか。ただ、出来るだけ殺さぬようにお願いします。記憶を覗くには脳が必要ですから」

「分かった。最低でも頭は残すわ」

「あ……いえ……そういう意味では……」

「じゃあ行ってくる!」


 ツクモが怖い! 頭ってリーダーって意味だよね!? ねぇそうだって言って!


 今までのエリックの言動や性格から、例え今のセリフがそう聞こえてもちょっと小洒落た冗談だと分かりそうなものだが、完全にあっちの世界の人間なのか、ツクモは違う意味で張り切って階段を下りて行った。


「お、おいエリック。あの子と契約しちゃって本当に大丈夫だったのか?」

「え、えぇ。というかもう手遅れですし……だけど一応契約には私には危害を加えられない制約がありますから、大丈夫だと思います……」

「そ、そうか……」


 エリーック! 契約は慎重に行おうぜ! 


 今のところツクモからは邪悪な気配は感じない。それどころかマリアやミサキと仲良くなれそうな感じさえする。だけどねぇ~……


 そんなツクモは、階段間口まで降りると壁に張り付き小休止した。そして呼吸を整えるように深く息を吸うと、全く中を確認せず突然飛び出して行った。ただその時の突入速度は目を丸くするほど速く、ほとんど瞬間移動に近い速度だった。

 そして飛び出して十秒もしないうちに長いポニーテールを靡かせ可愛らしくひょっこり顔を出した。


「終わったよ。もう安全だから皆降りてきても良いよ」


 圧巻の手際だった。飛び出してから戻って来るまでの速さも驚きだが、その間物音一つ立てず仕事を終わらせたツクモは正に殺し屋だった。

 それは俺だけでなくエリックもゴードンさんにも衝撃で、誰も返事すらしなかった。


「ねぇどうしたの? 早く降りて来てよ」

「えっ、あぁ……今行きます! さぁ皆さん行きましょう」

「あ、あぁ……」

「はい……」


 今さっき人を襲ったはずのツクモが、まるで友達と待ち合わせしていたかのような感じで呼ぶ声には、悪魔も含む男三人は呆気に取られた。そしてその声につられてとぼとぼ階段を下りる姿は、とても不甲斐なかった。


 下へ降りるとそこは打ちっぱなしのコンクリートで覆われた空間となっており、薄汚れた木のテーブルや冷蔵庫がアジト感を出していた。そしてその奥にはこれまた粋に鉄製の味のある重々しい扉があり、まるで絵に描いたようにアジトを主張していた。


「エリックさん、どれにする?」

「え? あ、あぁ……ではこの方で……」


 良い仕事をするツクモは、倒した見張りを綺麗に並べてあり、その中からまるで商品のようにどれが良いかと訊く。そんな常軌を逸したツクモにはさすがのエリックも魂消ていた。そして逆にここまで気の利いた仕事をしたツクモには逆らえず、言われるがまま適当に選んだ見張りから記憶を覗き始めた。


「……なるほど。これで大まかなアジトの情報は得ました。ただ、やはり彼らは下っ端のようで、ほとんど彼らの戦闘能力については情報を持っていません。ここからはかなり厳しい戦いになりますが、大丈夫ですか皆さん?」


 結局三人全員の記憶を覗いたエリックだったが、重要な情報は得られなかったようで小さくため息を付いた。


 実際対象者の情報というのはかなり重要で、戦闘スタイルや武器の他にも、性格や癖を知っているかどうかで対処法は大きく変わる。それこそ利き足程度の情報でも得られればそれだけでもアドバンテージを取れる可能性もある。

 

 これには俺も期待していただけに、かなりがっかり来た。しかしやはり鬼の子ツクモは、気にする様子も無く言う。


「大丈夫よ。だってエリックさんのこの力凄いもん! ちょっと力入れただけで今まで経験した事ないくらい速く動けて、危うくこの三人の首飛ばすところだったんだよ?」


 怖いわこの子! もう既に浸食されてんじゃねぇの!?


 元暗殺者という経歴がそうさせたのか、それとも元々こういう性格なのかは分からないが、非日常的な事を言うツクモはまるで酔っぱらっているかのような印象さえ与えた。

 

 そんなツクモに対し、合わせるようにエリックが言う。


「そ、そうですか。でもいくら私の力が影響しているとはいえ、ここまでの事を成せるのはツクモさんの積み重ねによるものですよ?」

「ま、まぁそれはそうだけど……」


 余程エリックに褒められたことが嬉しいのか、ツクモはここで照れるように口籠った。


 良いぞエリック! その調子で少しツクモのテンションを下げろ!


「そうです。いくら私との契約で力を得ても、元が弱ければ意味を成しませんから。ツクモさんは元々御強いからこそですよ」

「も、もう止してよエリックさん~。べ、別に私はそんなに強くないし~……」


 ツクモならてっきり「当然!」と胸を張るかと思ったが、どうやら中身は普通の女の子のようで、腕を背中に回し恥ずかしそうに体を揺すった。

 それを見るととても可愛らしい女の子だったのだが、白目を向いてぶっ倒れる見張りを見ると、ツクモが筋肉ダルマに見えてしまった。


「ただ忘れないで下さいよ。私の力を使用すればするほど体には悪影響を及ぼします。ツクモさんは力の使い方は極めているようですが、それでも先ほどのように瞬時に力を高める事さえ危険だと理解して下さい。分かりましたか?」

「……はい」


 飴と鞭を上手く使い分けたエリックの言葉に、ツクモのテンションは少し下がった。しかし叱られているはずなのに、何故かツクモの姿が大好きな先輩に怒られる後輩女子にしか見えず、なんだかわけが分からなくなって来た。


「では皆さん、先に進みましょう」


 微妙な空気は流れたが、エリックの声が掛かるとツクモの眼つきも戻り、全員が固唾を飲んで頷いた。


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