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99話・おまえは私の子だ

「お義父さま」

「ユリカ。無事か?」


 頼もしい味方の登場に思わず「お義父さま」と、呼びかけたのに、デニスは見咎めなかった。私の身を案じてくれて無事で良かったと言ってくれた。

その時、バサリと音がしてアントンが自分を捕らえていた兵達を倒していた。私達の気が逸れていたその隙を狙ったらしい。アントンは胸元から何やら取り出して、それをリアモス陛下に向かって突き出していた。


「陛下!」

「母の敵っ。お覚悟!」

「止せ───。アントンッ」


 私の声と、アントンとデニスの声が重なる。倒れる陛下と、それを立ち尽くして見つめるアントンにこの場の時間が止まったような気がした。


「おまえが父などと、認めるものかっ」


 再びアントンは護衛の兵らに取り押さえられる。それに抗いながらアントンは叫んだ。


「アント……」

「陛下、傷に障ります。それ以上は話さない方が。医師を早くっ」


 倒れた陛下を抱き起こしたデニスは、息子の言葉に顔を顰めた。


「なぜおまえは母を犯した?」


 その一言は陛下に対して不遜なものだ。事情を知らない者でも明らかに分かる憎悪が見て取れた。


「そう……か。知っ……って」

「何を言っている? アントン。これは誤解ではすまない話だぞ。おまえは私の子だ」


 陛下が弱々しい声で言葉を紡ごうとしたのを、横からデニスが遮った。


「おまえが陛下の子だと? おこがましいことを申すな。まだ騙るのか? 不肖息子は頭がとうとういかれてしまったらしいな」

「……父上」

「おまえは他国とはいえ、一国の王に手をかけた。これは許されない事態ぞ。帰国した後、私も首を差し出すしかあるまい」


 おまえの取った行動で、ガーラント家もそれなりに処罰を食らうことになるだろうと、デニスは目を潤ませて言った。私には、デニスが必死にアントンは自分の子なのだと周囲に知らしめているように思われた。

 この場にはトロイル国の護衛兵と、リギシア国からデニスが連れてきた配下の者達がいる。アントンのしでかしたことから、彼の実父が誰か皆、薄々悟っただろう。それをデニスは危惧しているのではないかと思った。


「私はいい。だが、ノアはどうする? あの子はまだ子供だ。あの子の未来までは奪いたくない」


 デニスの言葉にアントンは諭された様子はなかった。憎々しげにデニスを睨んでいた。


「あなたは私を責められるのですか? 家族である私や母よりも、メネラー公爵令嬢とその息子を優先にしてきたあなたが?」

「それは違う。アントン。私はおまえのことを……」

「言い訳などいりませんよ。あなたは私を憎んでいたはずだ。愛していた女性が別の男の子供を産んだのだから」


 その言葉に陛下が弱々しく命じる。


「皆……、この部屋から……出ろ。呼ぶまでは……近づく……な」


 最後に父子との会話をさせてやれと兵達に命じたので、皆がこの場に陛下とアントン父子を残して退出する。アントンは身動きできないように体や手首を縄で絞められていた。私も退出した方がいいかと思ったら医者としてドーラが駆けつけ、私はその場に引き留められた。


 ドーラは手際よく陛下に処置を施し、この部屋の壁際に追いやられていたカウチソファーを持ち出してきて、そこに陛下の身を横たえさせる。陛下を寝室に運んではどうかと思ったら、アントンに話があると言って陛下がそれを拒んだ為だ。


「私はおまえのことを憎んだことはない。おまえは誰がなんと言おうと私の子だ」

「母上は最期の時を迎えた時に私に言いました。おまえはお父上の子ではないと。おまえの父はトロイル国のリアモス王子だと」


 アントンは父上がいくら隠そうとも、自分は母親から真相を教えられていたと告げた。



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