97話・厄介でしかないのに
それから数日後。私はアントンに連れられてお城に上がっていた。リアモス陛下から二人そろって呼び出されたのだ。本当は来たくなかったけれど、この国一番の権力者からの呼び出しに断るほどの勇気もない私は、渋々応じた。
せめて馬車の中にアントンと二人きりでないのが幸いだった。ドーラが同行を許されている。でも、宮殿の中までは侍女はついて来られないので、彼女は馬車の中で待機となる。
宮殿について馬車の中から「お気をつけて」と、ドーラに声をかけられた時には引き返したくなった。行動には出来なかったけれど。
「いつの間にきみは陛下と親しくなったんだい?」
「さあ?」
アントンのエスコートで宮殿入りすると、彼に聞かれた。別に陛下とは親しくはなっていない。一度だけ言葉を交わしただけ。それなのにアントンに怪訝そうな目で見られる。自分の知らない間に私が陛下と仲良くなったとでも思っているのだろうか?
「あなたが留守の時に訪ねてきて少し話をしたくらいだけど」
誤解のないように言っておく。陛下とは別に親しくする気はないもの。アントンは何か目的がありそうで、しきりに陛下をあの屋敷に呼び出そうとしていた。仲間たちもその日に徴集をかけていたようなので、何か彼がしでかそうとしていたのは明らかだ。
アントンが陛下を屋敷に呼び出そうとしていたのに、陛下が応じなかったのは猜疑心が強いだけではなくて、その影でフィーたちが暗躍していたからだった。
陛下が来る予定日に決まって陛下の体調が思わしくなかったり、アントンに用事が出来たりして接触を遅らせに遅らせてきたのだ。
フィー達はこの国に伝手があり、その仲間を通して宮殿にも自分の手の者を送り込んでいると言っていた。
アントンの目的が何なのか分からないでいる。フィーには見当がついているのだろうか? 今日は姿を見せてないけれど、ドーラの話ではもう宮殿に先に向かっている。との事だった。フィーは諜報部隊を任されているそうだから、恐らく忍び込んでいるのだろうけど。
リギシアに居た時は、リアモス陛下は好戦的な人物と聞かされていたから、普段から他国に攻め入ることを考えているような屈強な男だと思っていた。でも実際に会った陛下は、とてもこの国の王様とは思えないほど凡庸な人物に思えた。悪意が感じられなかった。そのことに驚いた。
しかもアントンが王太子の子だと騙っているのもご存じのようだ。その陛下からのお呼び出し。これから何が起こるのか想像がつかなくて身震いする。
「どうした? ユリカ。寒いのかい?」
「別に……」
どうしてこんな時に気がついてしまうのか? 結婚当初は気遣いもなかった人が。今頃優しくされても絆される気はしないけれど、まだ出会った時の彼の方がましだったと思う。
あの頃の彼は、政略結婚相手である私を特別扱いしなかった。新婚夫婦としては冷めていた方だろう。それでも間にノアを挟んでいい距離を保ちつつ、お互いを共同生活の仲間として認めていた。恋愛はなくとも友愛のようなものはあったのだ。
それが今は厄介としか思えなかった。彼とは正式に離婚したのだ。赤の他人のはず。それなのにどうしてこうなったのやら。これが彼の駆け落ちした当初なら、あれは芝居だったと、嘘でもそんなことを言われたなら信じるくらい彼を信じきっていたはずなのに、今はそんな気持ちはさらさらない。彼が何かしでかす度に疑いたくなるくらい、彼への信頼の気持ちは薄れていた。




