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93話・ようやく来てくれた

「ありがとう。ドーラ。おかげで命拾いしたわ」

「でもユリカさまが刺されたと知らされた時には目の前が真っ暗になりました。無茶はしないで下さいよ。あんな男なんか放っておけば良かったのに……!」


 ドーラが口惜しそうに言う。


「本当ね。まさか私は盾にされるとは思わなかったわ」

「盾? ユリカさまがあの男を庇ったのではないのですか?」

「そんなはずないじゃない。そういう風にアントンが言っているだけよ」


 ミールがドーラと知って、私の口は軽くなっていた。彼女は私がアントンを庇って刺されたと信じ込んでいた。訂正をすると顔色が変わった。


「ユリカさまをあいつは盾に? 許せないっ」

「まあ、咄嗟のことで思わずと言う感じだったのかしら? 私も驚いたけど」

「そんなのいい訳にもなりませんよ。自分が庇うならともかくもユリカさまを? 最低っ」

「まあ、無事だったんだから……」


 憤るドーラを宥めていたらノック音がして料理人が姿を見せた。調理帽を目深に被ってはいても端整な顔立ちは隠せていない。私は彼と目が合った瞬間に涙ぐみそうになった。ようやく来てくれたという思いでいっぱいになった。彼の後をひょこひょこネグロが付いて来た。


「フィー?」

「ユリカっ」


 フィーが大股で歩いてきてベッドの私を抱きしめた。その彼を抱きしめ返そうとした私は横腹に痛みを覚えて伸ばしかけた手を引っ込めた。


「痛っ……!」

「ユリカ。ごめん」


 痛みがある部分を手で押さえた私を見て、フィーはすぐに離れた。後ろにいたネグロは足が踏まれそうになって飛びのく。


「無事で良かった……」

「ありがとう。ドーラのおかげで命拾いしたわ」


 心配したと言うフィーに、もう死ぬかと思ったわとほほ笑めば彼が謝ってきた。


「済まなかった。ユリカ。こんな目にきみを遭わせてしまって」

「もう、これであなたで二人目よ。私に謝ってきたのは」

「本当ならもうきみを連れてこの屋敷から出ている予定だったんだ」


 フィーが非常に残念そうに言う。


「もしかして私が刺されたせいなの?」

「……いいや。俺の判断ミスだ」

「私の怪我なら想定外。あなたが罪悪感を感じることはないわ。もちろん、ドーラもね。せっかく命が助かったのだから、湿っぽい話は止めましょうよ」


 素直に助かって良かったと思って欲しいわ。と、言えばふたりとも安堵したような様子を見せた。


「結構痛むわね。傷が浅いと知ってはいても気になるわ」

「仕方ありませんわ。刺された場所が脇腹でしたから。でも、コルセットをしていたから刃物の先がそれで止められて済んだんですよ。もしも、深く突き刺さっていたりしたらと考えたら生きた心地がしませんでしたわ」


 こうしていてもずきずきと結構痛みを感じるのに、傷はそう深くないと言われても信じがたかった。ドーラは私がコルセットを着ていたから、それが刃先を食い止め、深く刺されずに済んだのですよ。と、言う。

 刃物で切られる経験なんてこれまでなかったから、こんなに痛いものかと痛感した。


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