91話・ミールの正体
ベッドの中でこれから自分はどうなってしまうのだろうと思っていると、ミールが私の顔のすぐ横に顔を寄せてきた。耳もとで囁く。
「な、なに?」
「ユリカさま。ご安心下さい。私はあなたさまの味方です」
「何言ってるのよ。あなたはアントンの……!」
再び体を起こそうとして腹部に痛みが走る。しばらくはこの痛みを味あわなくてはならないのかと思うと、思うように動けないこの身が情けなくて仕方なかった。
「どうしてこんな目に……!」
「ユリカさま。無茶をしては駄目です。まだ傷口が塞がったばかりですから」
情けなくて泣けてきそうになる私の腰に、ミールが手を回してきた。
「ゆっくり起き上がりましょう。私が手を貸しますから」
「ありがとう」
じくじくする痛みを堪えながらも、ミールの手を借りてベットの中で半身起こすと、サイドテーブルの上にミルクティーが置かれていた。
「お飲みになりますか?」
「ありがとう」
ミールから手渡されたティーカップに口を付けて驚いた。中身は私好みのミルクいっぱいのミルクティーが入っていた。以前、ある人が私の為に入れてくれた物と同じだった。
「これって……?」
「フィーさまが入れたものですよ」
ミールがニコニコして言う。
「ミール、あなたどうして?」
「分かりませんか?」
「分からないわ」
「私ですよ、わ・た・しです。ユリカさま」
ミールが目配せして自分を指すが意味が全然、分からない。その私に仕方ないですね。と、言いながらミールはこめかみ横の髪を持ち上げた。
「ミール……?」
ミールの髪は鬘だった。そして鬘を取って見せた彼女はにっこりほほ笑む。その微笑には見覚えがあった。
「あなたドーラなの? うそ? いつから?」
「すみません。初めからです。ユリカさまが攫われてからこの屋敷に侍女として、もぐりこんだのは良かったのですが、アンナに疑われていたので、彼女の信用を得る為にユリカさまには辛く当たってしまいました。申し訳ありませんでした」
「ビックリしたわ。あなたがミールだったなんて思いもしなかった……」
そう言いながらも私は気が付いたことがあった。
「もしかして侍女達が、途中から態度を変え出したのはあなたのせい?」
「それもすみませんでした。ユリカさまが悪く言われ続けるのは耐えかねたので、侍女仲間達にこっそり吹き込んだんです。アンナさまは実はユリカさまから旦那さまを奪って我が物顔でここで暮らしていると」
「じゃあ、フィーはどこにいるの?」
「食堂です。この屋敷では料理人の一人として忍び込んでいます」




