74話・おとうさまがいた!
ノアが来てから一週間が経った。ノアは屋敷の者たちとも仲良くなっていた。ノアのお供について来たキランを始めとした護衛達や、ドーラも他の使用人達と親しくなり、元からいたかのように馴染んできた。
今日は収穫祭。ノアを連れて屋敷近くの広場に来ていた。広場には幾つもの屋台が並ぶ。この地方では農業が盛んなので串に刺さった炙り肉や、ミートパイ、チーズを使った料理、カット野菜のフライや、ナッツの蜂蜜漬けなどが売られていた。
ノアは私の手を引き、目を輝かせる。私達の後ろには笑いながらキランとドーラがついてきていた。
「ん~。おいしそうないいにおい」
「食べてみる?」
「うん」
ノアが目を留めたのは、この地方で取れた芋を長方形にカットして揚げたものに、塩を振ったものだった。他にも炙り肉や、パイに飲み物を購入し、同行してくれたキランやドーラとも分け合って食べることにした。
幸い、近くにベンチがあったので、そこで四人で固まって食べる。
「おいしい~」
「ここは空気が澄んでいて良い環境ですね。素材が良いからか食べ物も美味しく感じられます」
炙り肉に齧りついたノアが笑顔を見せる。ドーラは舌が肥えてしまいそうだ。と、言いながらむしゃむしゃパイを食べていた。
「ここはのどかで良い所ですね」
「そうでしょう。何もない所だけどね」
一通り食べてしまうと、ノアがある物に目を留めた。
「あれはなに? おかあさま」
「なにかしら?」
ノアが見つけたのはカットされた果実と、白い物が交互に串に刺さっているものだった。甘い匂いをさせていることからお菓子なのだとは思う。売り子に聞くと新しく売り出した商品だと言われた。
キランとドーラはお腹いっぱいだと言うので、1本だけ買ってノアと半分に分ける。白い物はマシュマロだった。王都の屋敷ではよくココアに浮かべて飲んでいたものだ。
「美味しい。考えたわねぇ」
マシュマロと、カットしたフルーツを串に差して炙るなんて考えたこともなかった。これを考え出した人に脱帽だ。
「おいしいね。おかあさま。もうひとつ、たべたいな」
「分かったわ。じゃあ、もう一つ頂けるかしら?」
売り子に話しかけていると、ノアがいきなり「まって!」と、言いながら駆け出していた。
「ノア。どこ行くの? 待って頂戴」
「ノアさまっ」
キランが後を追う。その後をドーラと二人で追いかければ、ノアは広場の端まで来ていて、大通りに飛び出そうとした所をキランに止められていた様だった。
「いけませんっ。ノアさま」
「離して。キラン。今……!」
「一体、どうしたと言うの? ノア。突然、走り出して驚いたわ」
キランと揉めているノアに、ただならない様子を感じる。ノアはじっと私を見つめて言った。
「いま、おとうさまがいたの」
その言葉に頭の中が真っ白になった。




