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70話・出戻り娘になりました

 私はあれからガーラント家を去り、実家のバイス男爵家へと戻った。王都の屋敷ではなく領地の方へ。父はすでに長兄に男爵の地位を譲り渡し、領地で楽隠居を決め込んでいたのだ。そこに転がり込む形で出戻った。


 両親は私が出戻って単純に喜んでいた。姉たちは皆、遠くの地方に領地を持つ貴族に嫁ぎなかなか会えないし、兄たちも長兄以外は国外へ出てしまった。この国に残った子供は、長兄と五番目の姉に末娘の私。長兄は結婚して王都で所帯を持ち、五番目の姉は後宮入りした。


 末娘の私はといえば舅が将軍で、夫が子持ちの近衛総隊長さまとくれば、気安く会いにいけるはずもなく、領地から心配して見守っていてくれていたようだった。


 その両親達の元には、義父自ら出向いて話をしてくれた。両親達は私がアントンに離婚を切り出されていて、そのアントンが侍女のアンナと駆け落ちしたと聞いて渋面を作った。

 義父デニスは慰謝料を払うと申し出た。父は初め、それは我が家から連れて行った侍女の素行が問題であるとして断ろうとしたが、アンナがトロイル国の間諜だったと聞かされて驚いていた。母は卒倒しかけた。


 出戻りなんて外聞が悪いと思われるかと思ったけど、「顔を良く見せて」と、母が私の頬に両手を伸ばして感涙にむせび泣き、それに父がもらい泣きしていた。数名の使用人達も快く迎えてくれた。


 もうすでに半年は過ぎている。アントンとの離婚は、社交界に知れ渡っている頃だろう。今頃、私がガーラント家から追い出されたとでも噂が立っているだろうか?

 私のことはどう噂が立っても仕方がない。でも、ノアが寂しがってなければいいけど。と、思ってしまう。


「おかあさま」


 あの天使のような声が聞きたい。庭の東屋でぼうとしていると、「おかあさま」と、ノアの声が聞こえた気がした。


「お嬢さま。お客さまがお越しですよ」

「お客さま?」


 ここは田舎だ。王都とは違う。しかも半年前に帰って来た私は、ここでの知り合いはほぼいない。王都からのお客さまだとしてもわざわざ屋敷を訪ねてくる相手に心当たりはなかった。何かの間違いではないかしら? と、思ったら「おかあさま」と、再びあの声が聞こえたような気がした。


 空耳かと思ったのだけど、私に声をかけてきた侍女が振り返ったそこには天使が立っていた。


「おかあさま」

「ノア」


 信じられない思いで席から立ち上がると、小さく温かな存在が飛び出してきた。


「どうしてここに?」

「おじいさまにおねがいしたの。おかあさまにあいたいって……!」


 必死にしがみ付いてくるノアの頭を撫でていると、前方から見知った相手がふたりやってきた。


「お久しぶりです。ユリカさま」

「お久しぶりです」

「ドーラ。キラン」


 ノアの同行者は侍女のドーラと、護衛のキランだった。ふたりが頭を下げてくる。


「二人とも元気だった?」

「はい。皆、変わりないです」


 そう応えるドーラの声は、泣きそうになるのを堪えているように聞こえた。ノアと手を繋いで屋敷の中に入ると、ノアがしばらくこちらに滞在するのだと嬉しそうに言ってきた。


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