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68話・クリスマス・イブの晩に

 今夜はクリスマスイブ。ノアはこの日が来るのを指折り待っていた。窓の外は先ほどから降り始めた白い雪がちらつく。屋敷の中は赤や緑の配色で彩られ、玄関ホールには一緒に飾り付けたクリスマスツリーが飾り付けられていた。


 屋敷には舅のデニスや姑のマルゴットを招いていた。フィーは仕事の都合で遅れて訪ねてくることになっている。大好きなフィー叔父さんに会えなかったのを残念に思っているような様子のノアに、今夜くらいは夜更かしを認めようかしら? と、甘い母親心が顔を覗かせた時、ノアが言ってきた。


「おかあさま。こんや、サンタクロースはぼくのところにもきてくれるかな?」

「来てくれるわ。ノアはいい子だもの」

「くろいサンタクロースはこない?」

「黒いサンタクロースって?」


「わるいこのところにやってくるんだよ。いいこにはサンタクロースさんが、プレゼントをもってきてくれるけど、くろいサンタクロースは、わるいこのいえからおもちゃやおかしをぜんぶもっていってしまうの」

「それは嫌よね。おもちゃやお菓子を持って行ってしまうだなんて、黒いサンタクロースさんは意地悪ね」

「でも、それはしかたないよ。わるいこがいけないんだから。ばつなんだよ」

「そう。ノアは偉いわね。でも、クリスマスに楽しみにしていたプレゼントがもらえないばかりか、全部おもちゃを持っていかれたなら悲しいわよね」

「うん。だからぼく、はやくねるんだ。サンタさんはおそくまでおきていたらきてくれないよね? おじいさま、おばあさま。おやすみなさい」


 ノアの言葉に、ワインで気持ちよく酔っている舅は機嫌よく「お休み」と、声をかけ、「サンタクロースのプレゼントが楽しみね」と、姑のマーゴットはノアを見送った。

 ノアはサンタクロースにそりをお願いしていた。窓の外を伺えば雪の土の上がうっすらと白く染まっていた。止みそうにない雪。この分だと明日の朝には、彼が望んだ通りの展開になるだろう。


「あいつもそろそろ帰ってくるだろうな」

「帰ってきたら支度をしないとね」


 デニスがいうあいつとはフィーのこと。マルゴットも可笑しそうに言う。我が家の天使が寝た頃に彼は帰ってくるだろう。



「お義母さまはいつもそのロケットペンダントをされてますよね? お気に入りなのですか?」


 ふと、義母の胸元で揺れる透かし彫りの入った銀のペンダントが気になって言えば、義母は遠い日を思い出すように言った。


「ええ。これは大切なお友達とお揃いで持っていた物なの。この中にはそのお友達の絵姿が収めてあるわ」


 そう言って義母がロケットの中を開いて見せてくれた中には、一人の女性の絵姿が収めてあった。


「これは……!」

「この人の最愛の妻だった人であり、私の親友でもあった人よ。私達は彼女のことを一生忘れられないの」


 マルゴットはデニスを見つめながら、どこか寂しそうに言った。義母のロケットの中に収められていたのは、アントンの産みの母親らしい。アントンはマルゴットを嫌っていたが、母親はマルゴットと親しい関係を築いていたらしかった。


見せてもらったペンダントの中の女性はアントンに良く似ていた。髪の色や瞳の色からアントンは父親似なのだろうと勝手に思っていたけれど、その女性の方に良く似ていた。女性は綺麗な人だけど凛々しさが感じられた。


「彼女の持っているペンダントには、私の絵姿が納められているわ」


仲の良い証として、お互いの絵姿を納めた揃いのロケットペンダントを、若かりし頃、アントンの母と贈りあったのだとマルゴットは懐かしむように言った。

 詳しくその頃の話を聞きたいと思っていたら、フィーが帰って来た。


「いやあ、寒いなぁ」


 外套を執事のテオに預けながら入室してきた彼は「ノアは?」と、聞いてくる。


「もう寝たわ」

「じゃあ、やるか」

「ちょっと待って。今、帰って来たばかりでしょう。少し休んだら? 体が冷えているわよ」

「ああ。うん」


 暖炉の側の椅子に彼を促がし、濡れている頭を拭くようにとハンドタオルを手渡す。


「二人は子供の頃から仲が良かったわよね」


 と、マルゴットが遠い日を懐かしむような目を向けて言ってきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] この世界、クリスマスがあるんですね。 ということは、キリスト教がある世界なんですかね?
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