67話・俺の気持ちは九年前から変わっていない
「あの日は、まだ追手が追及を諦めていなくて、たまたま森のツリーハウスにいた俺を見つけてしまったんだ」
あの日、フィーと私はツリーハウスで会う約束をしていた。彼は私が訪れるのを待っていたのだろう。
「追手の男達が俺を見つけて捕まえようとしたから逃げ回っていた。そこに様子を見に来たハンナや、護衛達に助けられたんだけど、追手の男達と護衛が切りあった衝撃でツリーハウスは倒壊したんだ」
「そうだったの」
「その後、再び追手がここに来ないとは限らないと、母さんが判断して出て行くことになったんだよ。せめてユーリには話をしておきたかったけれど、急を要して大人達に連れられて再び逃亡することになった」
「ごめんなさい。そんな事情があったとは知らなかったから、あなたが私に何も言わずに出て行ってしまったことが辛くて許せなかったの」
「悪かった。ユーリ」
「あの日のことだけど……」
以前、フィーが私に対する想いを伝えてくれたのに、私は猜疑心から疑ってかかって受け入れなかった。あの時、フィーは私に事情を伝えようとしてくれていたのに聞こうともしなかった。
その私が今更、彼に対して何が言えるだろう。
「ユーリは俺の事は嫌いか?」
「嫌いじゃないわ」
彼の問いにすぐに答えられた。こんな中途半端な気持ちは良く無いのかも知れない。でも、フィーが当たり前のように側にいてくれるのはあり難かった。
「俺の気持ちは九年前から変わってないよ」
「……!」
「きみが好きだ。九年前、ツリーハウスできみにそれを伝えた後に言いたい事があった」
「なあに?」
「俺の嫁さんになってくれないかって、言おうと思っていた」
「九年前って言ったら私はまだ十二歳よ。あなただって十五歳じゃない。気が早くない?あの頃の私たちってまだ子供だったじゃない」
「そんな事もないさ。ユーリはいっそう可愛くなってきていて、俺は焦っていたんだ。誰かに取られる前に婚約しておこうって思っていた」
自分はあの頃からきみを妻にと願っていたと、フィーは言った。
「それなのに先を越されてしまったんだから意味ないけどな」
寂しそうに言うフィーに、胸が搾り取られたようにきゅんと締め付けられた。思わず心の声が漏れそうになった。でも固く唇を引き結ぶ。この想いはまだ彼に悟られる訳には行かない。私の立場はまだあの人の妻なのだ。
今はまだ、仲の良い義姉弟でいさせて。
私の心の中の葛藤を読んだようにフィーは、私にそれに対してどう思うかなんて問わなかった。ただ一言だけ言ってくれた。
「親父から聞いたんだけど、きみが陛下にあることを願い出ていると聞かされた。何を願っているのかは教えてもらってはいないけれど、きみの願いが叶う事を祈っているよ」
「ありがとう」
「俺はどんな結果になろうとも、きみのことを影ながら応援しているよ」
フィーはまるで私が何を陛下に嘆願したのか、知っているかのような口ぶりだった。諜報部隊を任されていると言っていたから、もしかしたら部下にでも陛下と私との会話を聞き取らせていた? それとも聞いていた? と、一瞬、疑いかけたけど止めた。
フィーが口にして言う事ではないことを言ったのは、そんなズルはしてないという彼の意思表示のような気がして。子供の頃から知るフィーはそんな人であるはずがないと信じたい。
この先、どう転がろうと、フィーなら分かってくれそうな気がしていた。




