64話・ロマ画家と知り合い?
「まるで王女さまみたい」
「題名が王子か。意味深だな」
「今ではなくなってしまった風習だけど、お爺様たちの世代まではあったのでしょう? あの頃は原因不明の病気で男子が亡くなってしまう事が多かったから、病魔から見逃してもらう為に、幼い男子に女装させていたって聞いたけど?」
「昔は血族婚が多かったし、その繰り返しで子供に弊害が出たらしいな。きっとロマはその話をどこからか聞いて、描いたんだろうよ」
「フィーって、まるでロマ画家と知り合いのように言うのね?」
「知り合いだからな」
「えっ? 知り合いなの? うそ?」
「そのおかげでチケットをもらえた」
そう言いながらフィーは口元に指を立てた。いつの間にか私の話す声が大きくなっていたようだ。幸い周囲には誰もいなかったから、フィーがロマ画家と知り合いなのを知るのは私、一人だ。
「いつの間にそんな有名人とお知り合いに?」
「偶然というか、俺が仕事で向かった先の国で、たまたまあいつがチンピラに絡まれて困っていたのを助けてやったことから親しくなったんだ。あいつはその国の王様のお抱え絵師だったから、やっかみが酷くてさ」
「なるほどね。そうじゃないと高級なラピスラズリを絵に使えないわよね」
フィーは、ロマ画家は王様お抱えの絵師だったから周囲にやっかまれていたと言った。なるほどと納得した。ラピスラズリは希少であり、高価なのだ。一介の絵師がほいほいと買える代物でもない。どこかの国の王様がパトロンならば可能なのかも知れなかった。
実際、ロマ画家の絵はどれも素晴らしかった。絵の中の人物がこちらに何かを投げかけてくるような表情が描かれていた。今にも絵の向こう側から話しかけてきそうだ。
「素晴らしいわ。皆が素敵だと言うのが分かった気がするわ。これなんてどう? フィー」
私が特に気に入ったのは「青いドレスの女」と題名された作品で、舞台裏で自分の出番を待つ女性の凜とした姿から目が離せなかった。
「この女性なんてどう? 未来を見据えているような気がするわ」
「そうだな。断罪シーンに立ち向かうような場面にも思える」
「断罪?」
「俺にはそう見えるってだけだよ」
とんでもない言葉が、フィーの口から飛び出したような気がして聞けば、フィーは苦笑していた。その後もフィーとあれこれ感想を言いながら絵画を見て回るのは楽しかった。




