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62話・フィーのお誘い

 数日後。その日はフィーが夕食の時間まで滞在していた。食堂でノアと三人で食事を取り、ノアが先に食事を終えて食堂を退出したので、その後に続こうとしたら声をかけられた。


「待ってくれ。ユーリ、話がある」

「なに? フィー。話って」


 ここの所、彼を避けまくっていた。なぜか彼を前にすると気持ちがそわそわしてきて落ち着かない気にさせられる。そんな自分を知られたくなくて、毅然とした態度で応じると、不快だと伝わったのか謝られた。


「あ。ごめん」

「フィーは、私に謝るようなことは何もしてないじゃない。謝らないで」


 別に謝らせたいわけではないのに。こんな時に可愛げのない態度しか取れない自分が辛かった。


「それより何の話?」

「あ。うん……」


 私を呼び止めたくせに、フィーはすぐには話出さなかった。何かを考えているようで、もしかしたら夫のこと? と、思う。


「アントンのことなの?」

「……いや、違う」


 何でもハキハキ言う彼にしては、珍しく煮え切らない態度だ。私の前で口に出すのも躊躇われるほどのものなのか悩んでいるようだ。夫には浮気され、信用していた相手には裏切られた私だ。今更、何を聞いても驚かないけど、フィーの態度が気になった。


「ユーリはある絵画展に興味を持っているらしいな?」

「ああ。ロマ展のこと?」


 今、王都で有名な画家の絵画展が行われていた。ロマという名の画家の書いた絵が美術館で開催されているのだ。彼の絵は鮮やかな青色が用いられていて、その青は非常に貴重な鉱石を用いられていた。

 天空の青とも呼ばれる鉱石、ラピスラズリを用いた絵は印象的で皆の目を惹き、その石が希少であることからして、絵の値打ちは相当な額になるらしいと、この間、ザイルの妻のナンシーが訪ねて来た時に、興奮しながら話していた。


ナンシーはザイルと見て来たらしい。私も一度見てみたいと思っていたけど、この国では絵画展は未成年者の見学は許されていない。ノアと見に行く事は出来ないし、どうしようかと思っていた。


「そのロマ展のチケットが二枚あるんだ。一緒に行かないか?」

「えっ? いいの?」


 今人気の絵画展のチケットをフィーが持っていると言い出し、私の気持ちは弾んだ。でも相手が私で良いのかな? フィーは女性にもてそうな顔立ちをしているし、謎は多くとも魅力的な男性だと思うけど。


「フィーには他に誘う人がいるんじゃないの?」

「他に誘うヤツ? いないよ。誰の事だ?」

「さあ? 若い子とか?」


 逆に聞き返されて、あなたの周辺に好意を持っていそうな若い子とかいるんじゃないのかしら? と、いう意味で言えば、逆に聞き返された。なぜだ? 逆に私が聞きたい。


「ユーリ以外に、誰と行くというんだ?」

「フィーはもてると思うのに?」

「ユーリ以外にもてても意味がないさ」


 今さらりと言い放った言葉が気になるんですけど? それって?


「ロマ展行かないのか?」

「行くわよ。行きたい」


 フィーの残念そうな顔に、即決すると「本当か?」と、フィーが喜んだ。その彼が一瞬、子供のように見えた。


「仕度が出来たら朝、部屋まで迎えに行くよ」

「じゃあ、着替えて待ってるわ」

「明日が楽しみだな。じゃあ、また明日」


 嬉しそうに食堂を出て行ったフィーを見ていたら、私まで気持ちが童心に返ったような気がした。




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