表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/116

56話・フィーも大変です

 私は以前、姉で側妃のマレーネからハッターレ侯爵令嬢から「かけおち」と、いう言葉が飛び出して驚いたという話を聞いていた。しかも、箝口令が敷かれていて誰も知らないはずのことをその令嬢は知っていた。

 ノアの気持ちも知らないで得意顔で言っていたので、つい、姉は怒って顔も見たくないと言ってしまったのだと言う。その後、なぜハッターレ侯爵令嬢が知っていたのか疑問に思い、陛下に相談したらしかった。


 その話を姉から聞かされた時に、ハッターレ侯爵がもしかしたらトロイル国と繫がっているのではないかと思い、フィーに相談してみた。フィーもその頃には、すでに舅とハッターレ侯爵を疑っていた様だった。


 しかし、ノアがその彼と出会い、屋敷に連れ込まれるとは世の中、何があるか分からないものだ。それにしてもノアが無事で良かった。ノアの身に何かあったとしたらこうも平静ではいられなかった。


「ハッターレ侯爵は、トロイルとどのような繋がりが?」

「侯爵の乳母の夫がトロイル人で、亡くなった第三王子殿下の側近だった縁で、王子の為にお金を工面したり、その夫が命の危険に晒されていた時は、自分の手の者を送って匿ったりしていたらしい」

「そう。それで侯爵がアントンに手を貸したのは、あの人のお母さまとも知り合いだったとか?」

「そうみたいだな」


 フィーは渋い顔をしていた。その顔に誕生日の夜を思い出す。あの日、お義父さまや、お義母さま達がやってきて私の誕生日を祝ってくれた。その晩、寝付かれずにいたら中庭にいるフィーに気がついて、彼と少しの間、話をした。

 その時にアントンの母について知らなかったことを教えてもらった。アントンの母と義父が仲が良かった事は知っている。古くからの使用人達から聞いていたからだ。でもアントンが成長していくにつれ、アントンのお母さまは塞ぎ込むようになって、寝付くようになってしまったとも聞いていた。


「もしかしてトロイルの密偵がこの国に入り込んでいたのはハッターレ侯爵の手引きで?」

「ユーリの勘は鋭いな。概ねその通りだ」


 そう言うフィーは、疲れきった顔をしていた。


「言葉が通じない人種ってけっこういるのな。疲れた……」

「もしかしてハッターレ侯爵?」

「ああ。白状したのはいいが悪びれる様子もなくて、自分が密偵をこの国に招いたというのにその自覚もないんだ。自分は困っていたトロイル人に手を貸しただけだと信じ込んでいてさ」

「それは厄介ね。じゃあ、私がお仕置きしてみる?」

「それは良いかも。って、止めてくれ」


 フィーは賛成しながらも、思い直して深々とため息をついた。


「精神が逝かれてしまっては話にならない」

「そこまで追い詰めないわよ」

「いや、さっきのあれは、悪霊でも乗り移ったのかと思うぐらい怖くて心臓に悪かった」

「そう? 自分ではノアに手を出そうとした侯爵を憎く思ったぐらいだけど?」

「あの場にいた誰もが、きみを本気で怒らせてはいけない人、認定していたと思うよ」

「そんなに? まさかノアも?」

「そう思っただろうね」


 フィーは苦笑した。


「でもユーリと話してみて良かったよ。これからもまだハッターレ侯爵から詳しいことを聞き出さなくてはならないんだ。気が重くなったのがすっきりした」

「じゃあ、私、取り調べに付き合う?」


 それは遠慮するよとフィーには断られたけど、後日、ハッターレ侯爵の取調べの場に差し入れを持ってきた体で顔を出すと、フィーは不在だったが、それまでフィーの部下を相手に、のらりくらりと追及をかわしていた侯爵は、私と目が合うなり青ざめて全て吐き出すことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ