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51話・母と子

「カアッ」

「なに? ネグロ? おぎょうぎわるいよ」

「カアカア」


 フォークを持った手を嘴で突かれる。


「いたいよ。ネグロ。なに? どうしたの?」

「カカカア」


 何か伝えようとでもしているようだ。


「なにをいいたいの?」


 言葉が通じなくてもどかしい思いにさせられる。義叔父さんはネグロと友達だと言っていた。どうやってネグロと気持ちを通わせているんだろう?


「おまえもたべたいの?」


 ケーキの角をフォークですくってネグロの前に出したら、ネグロはそれを頭で押しのけた。何か伝えたい事がありそうだ。手に持ったお皿がバランスを崩して床へと落ちる。


「わあっ。ごめんなさい」

「構わないよ。新しいのを用意させよう。おい」


 侯爵が威圧的に侍女に命じる。侍女は落ちたケーキを拾い、テキパキと処置すると再び新しくお皿にのったケーキをノアの前に置こうとした。するとネグロがノアの膝の上で羽を広げて阻止しようとする。


「ネグロ」

「なかなかだな」


 侯爵がネグロを見て言う。


「マノン。お部屋に行ってなさい」

「ノアさま。おへやにいきましょう」


 マノンに促がされてソファーから立ち上がりかけたノアを侯爵が引き止めた。


「いや、ノア君には私から話がある」


 父に見据えられて、マノンは大人しく引き下がる。侍女を連れて退出し、その場には侯爵とノアだけが残された。ネグロはノアの肩に乗った。


「君のお目付け役のそのカラスは優秀なようだ。ケーキに眠り薬が盛られていたのに気が付いたようだからね」

「どうしてそんなことを?」

「君をお父上に会わせる為だよ」

「おとうさまがいま、どこにいるかしっているの?」

「ああ、知っているとも。あのお方はトロイルにとって重要な御方だからね」


 ノアは身を乗り出した。




「ノア。ノアっ」


 ノアが市街に向かったようだと捜索隊の者達から聞きつけて、私は屋敷でノアが帰ってくるのを待ってはいられずに、フィーと共に噴水前広場に来た。私達の後にはキランの他、数名の兵が同行していた。


「ノア。どこに行ったの?」

「こっちだ。ユーリ」


 フィーが街の人たちに聞き込みをしていて、有利な情報を聞きつけたようだ。


「ノアがこの近くに豪邸を構える屋敷の主に声をかけられているのを目撃した人がいる。きっとノアはそこにいる」

「どうしてノアだと分かったの?」


 情報をくれた人はノアのことをよく分からないはずなのに? 


「実はノアには目立つ見張りをつけてる」

「見張り? いつのまに?」

「けっこう有能なヤツだから安心して良いよ。それのおかげで街の人たちは覚えていた」


 見張りが有能と聞かされて少しだけ安心した。でも目立つとはどういう意味だろう?


「ノアは大丈夫よね? 危険な目にはあってないわよね?」

「恐らく身張りがついている限り、手を出そうという輩はいないと思うよ。でも何が起こるか分からないからな。急ごう」


 フィーの目はもう先に向かっていた。


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