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50話・隠し事はどこかしら漏れることですよ

「このカラスはぼくがかっているわけではないです」


 相手の探るような目に面白くなく思うと、マノンが言った。


「おとうさま。わたし、ノアさまにしつれいなことをしてしまいました。カラスにおそわれているとかんちがいして、たすけようとしてあやまってノアさまをたたいてしまいましたの」

「なんだって? それは大変だ。ノア君、怪我はないかな?」

「だいじょうぶです」

「だいじょうぶじゃないわ。わたし、あたまをつよくたたいてしまいましたもの。こぶができてなければいいけど……」

「ノア君。我が家に来たまえ。我が家はすぐそこにある。冷やしたほうがいい」


 マノンの言葉に思わず、右手で頭のずきずきする部分を探れば膨れているように感じられた。すると有無を言わさず、手を引かれて広場から少し外れた大邸宅へ連れ込まれた。


「ノア君。そのカラスはどうにかならないのかな? 肩から下ろせるかな?」


 と、玄関に入ってから言われる。出迎えた侍女達は御主人様とそのご令嬢に連れられてやってきたノアの肩を見て驚き、後退りしていた。カラスは見た目から恐ろしいと思う人が少なくない。当然の反応に思えた。


 フィオンおじさんからネグロは賢い事は聞いて知っているけど、おじさん以外の言葉に反応するかは分からない。でもこれではこちらの屋敷の皆さんに嫌がらせしているようだ。駄目もとで言ってみた。


「ネグロ。下りて」


 ネグロはカアと鳴いて、足元に下りた。


「まあ。かしこいのね。このこ。まるでにんげんのことばがわかるみたい」


 純粋に感心したのはマノンだけで、マノンの父を始め、大人たちは苦笑を浮かべていた。


「さあ、ノア君。こちらへ。うちの娘が済まなかったね。誰か頭を冷やすものを持ってきてくれ」


 そう言いながらハッターレ侯爵は応接間へと促がした。ノアが勧められたソファーに腰を下ろすと、ひょこひょこ後をついて来たネグロが足元で止まった。向かい側の席にマノン親子が座る。そこに侍女がワゴンに乗せたお菓子やティーポットを運んできた。


「お父さまが大変なことになったね。お母さまはお元気かな?」

「はい。かわりはないです」

「そうかい? 駆け落ちだなんて相当なショックを受けられたと思うけど?」

「あの。どうしてそのことをハッターレこうしゃくさまはごぞんじなのですか? それはみながまだしらないはずですよね?」


 ハッターレ侯爵のこちらを探るような目線に、この人はおとうさまとアンナのことを知っているのだと何となく悟った。そのことをどうして知っているのか不思議に思う。侯爵が知っていたから、たぶんその娘のマノンも聞かされて知っていたのだろうけど。


 マノンの先ほどの謝罪や態度から、マノンはただ、「かけおち」と、言う言葉に憧れていただけで、実際はそれはいけないことなのだと、あの場で理解したのではないかと思った。あの時は、優しい側妃さまが激怒したことで大層驚いたことだろう。ノアもあの時の側妃さまは怖いと感じた。


「隠し事はどこかしら漏れることですよ」


 侯爵は悪びれる様子もなく言った。そして話題を変えるように目の前のケーキを勧めてくる。


「このケーキは如何かな? 我が家のパティシエは宮殿勤めのパティシエにも負けないほどの腕前でね、ほっぺたが落ちるほどの美味さだよ。どうぞ召し上がれ」


 目の前には、ノアの大好きなシフォンケーキがお皿に乗っていた。ふんわりしたスポンジに生クリームがたっぷり乗せられている。

 お皿を手に取りフォークを刺そうとしたら、ネグロが膝の上に乗ってきた。


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