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5話・ノアと一緒

 三時間後。ガーラント家所有の森の中に到着した私達は、湖の側で昼餐にすることにした。森林の中は心地良く、樹木や土の香りを含んだ香りが気持ちを落ち着かせる。湖の水面は日に当たって鏡のようにキラキラと輝いていた。


「おかあさま。あそこにさかなが……」

「そんなに近付いたら危ないわ。ノア」


 ノアは久しぶりの遠出に喜んでいた。私もノアの笑顔を見て癒されるような気がした。食後、ノアが「おかあさまとふたりきりで、さんさくしたい」と、言ったので侍女や、護衛達は気を利かせてくれて離れた場所から見守っていてくれた。


「ああ、いい気持ち。森の中なんて久しぶり。ノアと来たのは初めてね」

「おかあさまは、おとうさまときたことがあるの?」

「いいえ。お父さまと来た事はないわ。私の実家の裏には森があるのよ。子供の頃はよくそこで遊んでいたわ」

「へぇ。どんなあそびをしていたの?」

「そうね。お友達とかくれんぼとか、追いかけっことか、秘密基地を作って楽しんでいたわ」

「ひみつきち?」


 ノアの目が輝く。男の子はそういったものに興味が惹かれるものらしい。子供の頃、よく遊んでいた男の子のことを不意に思い出した。水仙の花のような明るい黄色の髪に、カラメル色した瞳。ノアとは何一つ共通点を見出せないのに、キラキラと好奇心に見せられた様子が彼に被った。


 私の父が所有している土地は沢山ある。その森林の樹木を伐採し、木材を生産している。国の半分以上は、父の領地から出た樹木で生活が潤っていると言ってもいいだろう。宮殿はもちろんのこと、貴族達や国民の住む家などを始め、家具も私の実家で出た材木が使われている。

 王都の一部高位貴族らには、そのことを妬んで「材木男爵」と蔑んでいる人たちもいるらしいが、父は気にしてなかった。


 王都の貴族達のように、自分の生活を潤わせる為だけに、領民に重い税をかけて働かせることを、私の実家では良く思っていなかった。領民を大事にし、彼らから税を搾り取るよりは少しでも暮らし向きを良くさせたいと考えてきた。その為、実家の領地では飢える領民は一人もいない。


 領民達を労い、彼らの為に憩いの場を何箇所か作り提供もしていた。屋敷裏の森もその中の一つで私達兄弟はよくそこで遊んだ。そこでフィーと会ったのだ。私が五歳のときで、彼は三つ年上だった。


 フィーはなかなかすばしっこく、頭も賢くて私はすぐに気に入った。初対面で仲良くなり別れ際には「明日も来て」と、誘うぐらいに。毎日、彼に会うのが楽しくて森の中に足を運んでいたようなものだ。


 その彼は遊びの天才だった。色々と遊び道具を生み出した。木と木の間に縄をかけ縄梯子のようにしたり、木切れを使ってブランコを作ったり、彼のアイデアは尽きなかった。「秘密基地だ」なんて言いながら、ツリーハウスまで作ってしまった時には兄達も脱帽していた。


 彼の考え出した遊具で、皆と一緒に日が暮れるまで遊んでいた。あんな経験をノアにもさせてあげたい。と、思ったところでアントンの顔が思い浮かんだ。 


 アントンは生真面目な男だ。

 貴族の模範となるような生き方を自分に課しているような男なのだ。その彼に今、私が考えているような事を実行したい、ノアに体験させたいなどと言ったのなら大反対されそうな気がする。


 気がつけば、私の手をノアが強く引いていた。



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