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48話・出会った人は

 フィオンおじさんが来ていると聞いて驚かせてやろうなんて思わなければよかった。おかあさまとおじさんが応接間にいると侍女に聞き、ドアに近付いたら聞こえたのだ。

 おとうさまがアンナと駆け落ちしたと。


 かけおち。

 最近、遊び相手の王女さまのお茶会に呼ばれた時に、その言葉を知った。お茶会には王女さまの他の遊び相手の数名のご令嬢が招かれていて、楽しく談笑をしていたら急にその話題が飛び出した。話題にしたのは、七歳の王女さまと同じ年のおしゃべりな侯爵家のご令嬢。


 そのご令嬢は招かれていたご令嬢方より身分が上で、リーダー格となっており、時々考えずに物事を口にするので、一緒にいるご令嬢方が困っていた。本人は一向に気にしてなかった。父親が宮殿で財務大臣という役職を賜っているのもあって、態度が横柄なところがあってあまり好きではなかった。

 その茶会の場に途中から側妃さまが顔を出すと、訳知り顔で言い出した。


「かけおちだなんてすごいですわよね? あいするものたちがおたがいに、てにてをとりあってかけおちするだなんて。いのちがけのこいだとおもいません? みなさま」と、興奮したように言ってきた。

かけおち? 首を傾げる自分の前で、王女さまが「おやめなさい」と、止めていた。


 伯爵令嬢は、「なぜですか? あいするふたりにはみぶんなどかんけいないのですわ。ねぇ、ノアさま」と、自分に振ってくる。


「かけおちってなんですか?」と、聞いたら

「あら? ごぞんじない? とうじしゃのかぞくなのに?」と、訳の分からないことを言われ御丁寧にも


「あいするだんじょが、そうほうのおやなどに、みぶんやじんしゅのちがいでけっこんをはんたいされたり、かたほうがきこんしゃでのぞまないせいりゃくけっこんを、おやにきょうようされていたばあいに、さいごのてとしてとる、きょうこうしゅだんですわ」


 と、胸を張って言われた。でも、その侯爵令嬢が気分良くいれたのはここまでだった。普段温厚で知られる側妃さまが激高されたのだ。


「出ておいき。二度とその顔を見せるではない!」


 遊び相手が側妃さまの不興を買っているのを見て、取り成すかと思われた王女さまも怒っていた。女官がすぐに呼ばれ侯爵令嬢の退席を促がす。

 その頃には侯爵令嬢も自分の失言に気が付いたようで「おゆるしください」と、涙ながらに言っていたがそれに心ほだされる側妃さまや王女さまではなかった。


 その侯爵令嬢は宮殿ではお見かけしなくなったし、その父親も職を罷免されたと聞いている。


 その時は側妃さまや、王女さまのお怒りが酷くて「かけおち」のことなど深く聞けなかったが、こういう事だったのかと今、理解した。


 おとうさまがアンナとかけおちしていたのだ。


 それを侯爵令嬢は馬鹿にしていた。

自分達は貴族で政略結婚が当たり前なのに、恋愛に現を抜かした父親が使用人とかけおちだなんてあり得ないと。


 それが側妃さまや王女さまの気に障ったのだろう。


 おかあさまは側妃さまの妹だから。側妃さまはおかあさまが傷つく事を良いとは思っていない。王女さまもそれを良く分かっているし、おかあさまは王女さまにも優しかったから、王女さまもおかあさまの事が大好きだった。その人を貶められて良く思うわけがない。


 それにしてもあの侯爵令嬢は、なぜそのような事を知っていたのだろう? 他に招かれていた令嬢達も「かけおち」と、いう言葉にきょとんとしていた。その様子から事情を知っているのはごく一部だったのではないかと思った。


 側妃さまや王女さま、そしてあの侯爵令嬢以外に知っていた様子はない。もしかしたらお爺さまか、陛下からこのことは皆に緘口令がしかれていたのかも知れない。そうなるとどうして侯爵令嬢が知っていたかって事になるんだけど……。


「カア、カァ……」


 そこへ鳥の鳴き声がして、黒いものが目の前に飛び込んで来た。


「な、なに? ネグロ?」

「あぶない! ノアさま」


 ビックリして顔を手で押さえていると、聞き慣れた少女の声が後ろからして頭に強い衝撃が走った。


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