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47話・新しいお母さま

 ノアはトボトボと市街を歩いていた。一人で屋敷を出るなんて初めての経験だった。いつも屋敷を出る時は、必ず侍女か護衛がついて来る。今まで何度か市街に出る事もあったし、帰ろうと思えば一人で屋敷に戻れるのだけど、どうしても気持ちが塞いで足が屋敷の方へと向かなかった。


────おかあさま。


 なかなか前に進もうとしない靴先に小石がぶつかる。それを蹴るとコロコロと石畳の上を転がって行った。嫌いだなんて言ったけど嘘だ。おかあさまのことが大好きだ。そのおかあさまに大嫌いだなんて言ってしまった。


────おかあさま。悲しそうな顔をしていた。


 おかあさまは三歳の時に屋敷にやってきた。おとうさまはおまえの為に「新しいお母さま」を迎えるのだよと言った。いつも仕事で屋敷にいないこの父に代わり、おまえの側にいて面倒を見てくれる人だよと。


 あたらしいおかあさま。


その言葉にドキドキして前日はなかなか眠れなかった。侍女頭のクラーラにはその頃、よく絵本を読んでもらっていたから、「新しいおかあさま」という言葉がどんなことを差しているのか分かっていた。

自分の本当のお母さまでは無い人。おとうさまの後妻。ままはは。


 絵本の世界では、「ままはは」は、意地悪な人が多かった。初めは優しく接していても、自分の子供が生まれるとその子の方が可愛くなってしまい、先妻の子は邪魔となって邪険に扱うのだ。

「新しいおかあさま」がやってくる。それがノアには不安だった。執事のテオやクラーラは優しい御方ですよ。と、言ってくれたけど、気になって仕方なかった。


 いじわるなひとじゃないといいな。


 ノアは寝る前に沢山、神さまにお願いをした。どうか「あたらしいおかあさま」は、やさしいおかあさまでありますようにと。

 そしてやってきたお母さまは期待を裏切らなかった。優しくてとても綺麗なお母さまと言うよりも、優しくて可愛いお姉さまだった。


このひとがぼくのおかあさまになるの?


 それがとても嬉しかった。こんなに若くて優しくてお姉さんにしか見えない人が、僕のお母さまになる。とても嬉しかったし、フィオン義叔父さんにも自慢したくなった。

 フィオン義叔父さんとはおじいさまの結婚で知り合った。おとうさまは嫌がっていたけど、とっても気さくな人ですぐに仲良くなった。フィオン義叔父さんもおとうさまに嫌われているのは分かっていたようで、おとうさまが仕事で帰りが遅い時にちょこちょこ会いに来てくれていっぱい遊んでくれた。


 それがしばらくして来なくなった。嫌われてしまった? と、思っていたらテオが「フィオンさまはお仕事で遠くの国に行かれているのですよ」と、教えてくれた。

 お仕事か。それなら仕方ないな。そう思っていた。おとうさまもおしごとで最近は滅多なことでは屋敷に帰って来なかったから。


 優しいおかあさまの顔が時々、曇る事はあったけど、おとうさまがお仕事で忙しいせいだと思っていた。心配はいらないはずだった。疎遠となっていた叔父さんだって、仕事が終わって帰ってきたらちょくちょくまた会いに来てくれる様になったし、おとうさまだって仕事が終わったら帰ってきてくれる。


でも────。


 おとうさまの仕事っていつ、終わるの? いつになったら帰ってくる?

 そう思いつつ、おかあさまには聞けないでいた。おとうさまのことに触れたら悲しむような気がしたのだ。



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