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42話・一言、相談して欲しかった

「アントンはそれを知っていたのね?」

「そうだと思う。アンナの素性には気が付いていたようだった」

「それならなぜ駆け落ちなんて……? 馬鹿げてる」

「俺もそう思う。どうしてそんな行動を取ったのか分からない。でも、これはアンナに唆されたのではなく、アントン自ら考えての行動のようだ」

「可愛いノアを捨ててまですること? 近衛総隊長の立場をなんだと思っているの?」


 この場にいないアントンに対してふつふつと怒りが湧いてくる。


「俺ならまずそんな行動は取れない。守る者があるなら守りに入るから置いてはいけない」

「普通はそうよ」

「ユーリ? 怒っているのか?」

「ええ。怒っているわ。アントンにね」


 なぜ一言相談してくれなかったのか? 自分はそんなに頼りない存在だったのか? あの生真面目夫が嘆かわしい。このような騒動を引き起こして義父や、息子にとばっちりが行く事を考えなかったのか? 

こんなに夫が融通の利かない男だとは思わなかった。


 相談してくれたなら密偵をどうするかの判断は夫に委ねたとしても、駆け落ちくらいは止められたような気がする。アントンの狙いが何か分からないけど、密偵とふたりで国を出るのは阻止できたような気がするのだ。


「なぜ黙って行動するのよ。私が頼りなかったならほかの人にでも相談しなさいよ。お義父さまとかザイルとか、フィーとか他に頼れる人、いっぱいいたのに……。あの人、誰も信用できなかったのね」

「ユーリ」

「だって悔しいじゃない。仮にもあの人の妻だったのよ。それなのに私、あの人のこと何も知らない。何を考えているか分からない。だけど……!」


 私の心は悔しい思いで満たされていた。夫婦になってからの三年間、あの人にとって理解ある妻であろうとした。でも、歩み寄ろうとしてもちっとも距離が縮まらなかった。あの人にとって自分とは興味の欠片もない存在だったのかと理解した。アンナよりも関心を持たれてなかったらしい。


「ユーリは一言、相談くらいして欲しかったんだよな? あいつに信用してもらいたかったんだよな?」


 フィーが私の心情を言い当てる。フィーは私の気持ちの一番の理解者のような気がした。フィーは私のことを良く分かっている。頬に悔しい思いの一粒が滴となって零れ落ちると彼は両手を広げた。


「ほら。ただで貸してやる。いま限定だ」

「フィー……」


 彼の胸に額を押し当てたら、よしよしと背中をトントンとされた。幼子にでもなったような気分だ。フィーの腕の中は温かかった。アントンにこのようなことをされた事はなかった。彼は必要以上の触れあいを求めようとはしなかったから。


 それが物足りなく思っていたけど、夫に関心を持たれてなかったのだから当然か。自虐に浸りかけた私の耳もとでフィーが囁いた。


「あいつの母は────だったんだ」


 彼の腕の中は温かかったけど、頬を刺す様な風が冷たかった。


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