41話・トロイルの内紛
アンナがトロイルの送り込んだ密偵だったと知ってから、以前のような彼女を信頼する気持ちは全く無くなってしまった。その代わりに膨れ上がってくるのは不審ばかりだ。義父から時々、教えてもらうアンナの話は、私が聞いていたものとは違いすぎていた。
私が嫁いでくる時に言っていた「彼女の実家」なんてガーラント所有の地には存在してなかった。彼女が時々、実家に帰るといってはもらっていた休暇。どこに向かっていたのかと思えば安宿の一軒家で、そこで見知らぬ男達と会っていたと聞くから、それはトロイル国のお仲間だったのかも知れない。
そこにたまにアントンも出入りしていたとも聞いた。呆れる気持ちしか無いが。
「彼女はそこまでして何がしたかったの?」
「メネラー公爵令嬢の産んだ王子を、擁立することを仲間と企んでいたようだ」
「……!」
アンナはハンクスやカールの死を踏み台にし、このガーラント家さえ振り回しているようにしか思えなかった。フィーの言葉にハッとする。
「メネラー公爵令嬢って先代の陛下の王弟の御息女よね? たいそう綺麗な人だったらしいわね。トロイルの元王太子妃さまだったんでしょう? 王太子さまはお亡くなりになっていて、現在は行方不明だと聞いているけど?」
フィーは頷いた。
トロイルについては、私も姉や父親から聞いて少しだけ知っていた。トロイルは大国で巨大な軍事力を持っている厄介な国だ。トロイルの前国王は好戦的で、常に近隣諸国に緊張を強いていた。その中、トロイルの王太子が我が国を訪れた際に、あるご令嬢に目を留めたらしい。
それがメネラー公爵令嬢で、彼女を見初めた王太子は、当時の亡き前陛下に所望したと聞く。
初め前陛下は、良い顔をしなかったらしい。令嬢はすでに自国の王太子と婚約していたからだ。それに横槍を入れてきたのがトロイル王太子となった。
相手を下手に刺激すれば開戦になりかけないと、危惧した者たちに前陛下が説得されている中、令嬢は自らトロイルの王太子の元へ行ってしまった。陛下は令嬢に犠牲をしいたと嘆かれたらしいが、でもそのおかげでトロイルに我が国が攻め込まれる心配はなくなったのだ。と、父は言っていた。
意外にもトロイルの王太子夫婦は仲むつまじく、数年後、王子が生まれたと聞く。でも王太子が急な病に倒れて亡くなったことで、他の王子達が政権争いを始め、国内が荒れに荒れた。
現在はその争いで生き残った元第八王子が王になったものの、まだ不穏な動きがあるらしいとは聞いている。
「トロイルでは内紛が繰り返されているのは知っているだろう? 現在、反王政派がその王太子妃さまの行方を探している」
「アンナは反王政派だったの?」
なぜ彼女がメネラー公爵令嬢についてしつこく聞きまわっていたのかこれで謎は解明したような気がした。それを聞くと今度は夫とアンナの駆け落ちが嘘くさく思えてきた。




