37話・理想の夫婦
「ユーリ。なに怒っているんだ?」
「別に怒ってなんかいないわよ」
「なんか俺にだけ態度が違うんじゃない?」
「そうかしら?」
今日は私の誕生日でそれを知った義父や、義母がお祝いのプレゼントを持ってフィーと共に駆けつけてくれた。実家では盛大にパーティーを開いていたので、義父らの来訪は嬉しかった。
食堂で皆と楽しい会食をしていた時だった。ふと、フィーが、私が自分にだけ冷たいのではないかと言い出した。そんなつもりはなかったけれど、不満はもっていたからそれが態度に表れてしまったのに違いなかった。
「あらあら。フィー。あまりユリカさんを困らせては駄目よ。嫌われるわよ」
義母のマルゴットが笑う。
「おかあさま。おじさんのこときらいなの?」
「きらいじゃないわよ」
ノアが悲しそうな顔で聞いてくる。嫌いではないと即答で応えると、ノアは笑顔を浮かべて言った。
「じゃあ、すきなんだよね? おじさんのこと」
その言葉は食堂の中で響き渡った。一瞬、時が止まったような気がした。誰もがこちらを注目している。義父や義母。壁際に立ち様子を伺っている侍女達。その中のドーラと目が合った時には、頬に熱が集まってくるような気がしてきた。
「な、な。何言ってるの? ノア」
「当たり前じゃないか。ノア。ユーリとは幼馴染だからな」
「おさななじみって、こどものころからのなかのよいおともだちをいうんだよね?」
「そうだ。よく覚えていたな。ノア」
「うん」
「さすがはノアだ」
戸惑う私に変わってフィーが答える。フィーは以前、ノアが幼馴染とはなに? と、聞いた事に対して私が答えたことをノアが覚えていたことに感心していた。私もうちの子凄い! と、内心、親馬鹿を発揮していた。静かだった食堂が活気を取り戻していく。
「ノアは賢いな。じーじよりも物事を良く知っている。なあ、マルゴット。もう一杯、ワインをもらおうか?」
「ええ。ノアは偉いわ。あなたもうその一杯で御止めになったら? 飲みすぎでしてよ」
「いいじゃないか。今日はユリカの誕生日で目出度い日なのだから」
「あなたはすぐそれなんだから。お祝いにかこつけて飲みたいだけじゃないの?」
「おいおい、酷いな。マルゴット」
機嫌を良くした義父に、義母がちくりと釘を刺す。見た目には厳つい男を小柄なリスがやり込めているように見えるものの、仲が良い事が知れて羨ましかった。義父達は、三年前の自分が、憧れていた理想の夫婦そのものだった。




