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33話・鈍すぎますわ

「おじさんもおいでよ。ひとりはさみしいよ」


 ノアは階段を下り掛けて振り返る。私もつられて振り返ると、皆がフィーに注目していた。


「ぼく、おじさんがだいすきだよ」


 それを聞いたフィーが凝視していた。ふだん余裕をかます彼にしては珍しい反応だ。キランとドーラは可笑しそうな顔をして見ていた。

 御者を連れてきてなかったので、行きと同様に帰りの馬車をキランが操る。その馬車の中で、寝入ってしまったノアに膝を貸してあげながら、向かい側の席に腰を降ろすドーラに向かって私は聞いた。


「ねぇ。ドーラ。あなたフィーのこと知っていたの?」

「フィオンさまのことですか? はい。存じておりますよ。それが何か?」

「彼とはどこで知り合ったの?」


 ドーラは不思議そうな顔をしていた。なぜそのようなことを私が言い出したのかと、訝るような様子だ。


「どこでって、お屋敷ですよ」

「……? どちらのお屋敷?」

「ご当主さまの、デニスさまのお屋敷です。そちらでフィオンさまにはご挨拶を受けましたから。フィオンさまはマーゴットさまの息子さんですよね?」


 フィオンという名前を聞いて、忘れかけていた記憶が蘇った。確かアントンの義弟の名前だ。舅の再婚したマーゴットさまには連れ子がいて、その息子の名前がフィオンだったのを思い出した。

 三年前の私達の挙式には、遊学ということで姿を見せていなかったけれど、そのフィオンがフィーだったというの?


「……!」


 真相を知って大声をあげそうになった私は必死にそれを飲み込んだ。


「まさか奥さま。気が付いておられなかったのですか?」

「……ええ。まぁ……」


 恐る恐るといった風にドーラが聞いてきた。そしてぼそりと「お気の毒に……」と、意味不明なことを呟く。キランといい、ドーラといい、ふたりは私の知らない何かを知っているようだ。


「鈍すぎませんか? あれほど顔を合わせておきながら気が付かないなんて。しかもノアさまは叔父さんと慕っていたではありませんか」

「ごめんなさい。ノアのおじさんという言葉はよその大人の男性に向ける小父さんのほうかと思って」

「そんなわけあるはずないじゃないですか。ノアさまは人見知りが強いのですから、知らない大人にほいほい懐きはしませんよ」


 ドーラとはこの間、執務室の掃除の帰りスイーツ店に行き、やけ食いにつき合わせたこともあり、散々腹の内をぶちまけたこともあって親しくなっていた。彼女は意外と辛口である。私が甘いとスイーツ店でも説教をかまし、主従の仲が逆転しちゃったのではないかと思ったぐらいだ。


「そうよね」

「フィオンさまが可哀相ですよ。今まで涙ぐましい努力をなさってきたのはユリカさまの為だったのに、忘れ去られてしまってしかも覚えてもらえてなかっただなんて……」

「そこまで言わなくとも。フィーが努力してきたのは私の為ってなに?」

「その辺りは本人に御確認ください。わたくしの口からは申し上げられませんわ」


 おほほ。と、急に慌て出すドーラ。都合の悪いことを私に言ってしまってしまったという顔をしていた。


「そこまで言っておきながら気になるじゃない」


 暴露しちゃいなさいよ。と、突っついたのにドーラは固く口を閉ざし続けた。


「このことがばれたならわたくしの命はありませんから。奥さまはわたくしに死ねとおっしゃるのですか?」


 大げさなくらい取り乱す。その騒ぎでもノアはぐっすり眠り込んでいた。天使さまは大物である。


「静かにして。ドーラ。ノアが目を覚ますわ」

「はあい。奥さま。それにしても酷すぎますわ。フィオンさまがお可哀相」

「お黙りなさい。ドーラ」


 ここぞとばかりに、私は奥様らしく言ったのだった。



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