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32話・アントンとフィーの出会い

「本当にあのお屋敷に住んでいたの? あのお屋敷には人相の悪い男が出入りしていると評判だったけど、何もなかった?」

「人相の悪い男……?」


 フィーが目を丸くした後で、何かに気が付いたようにくすくす笑い出した。


「……親父、災難だな。なぁ」

「なに?」

「いやあ。何でもない」


 何でもないと口では言うけど、フィーは何か隠しているようだ。だってキランと目配せし合っているのだから。


「あのお屋敷って誰かの持ち物だったわよね? 確かお父さまがどなたかの別邸だとおっしゃっていた気がするけど?」

「親父の持ち物だ。病弱だった亡き前妻さんとの避暑地用の屋敷だったそうだ」


 彼の言う親父とは舅デニスのことだ。その前妻ということはあの人のお母さま?


「もしかしてアントンさまのお母さまの? でも薄暗いお屋敷だった気がするけど?」

「ああ。アントンを連れて三人でよくあの地に遊びに来ていたらしい。アントンが五歳の時に母親を亡くしたからそれまでは屋敷も活気づいていたらしいが、俺達が住まわせてもらう頃にはあんな状態だったよ。それは逆に俺達にとっては都合が良かったけど」

「そう」

「外はあんな状態でも、屋敷の中は手入れがされていて快適だったよ」


 あの蔓屋敷にフィー達、母子が住んでいたというのも驚きだけど、義父やアントンにとって大切な場所だったことにも驚いた。私の記憶の中ではあの屋敷は、蔓に覆われた古ぼけた無人の屋敷だったから。そのお屋敷に活気があって人が住んでいたとはとても信じられなかった。


「滅多に人は訪れないし、急な訪問者から身を守れるからね」

「……?」

「でも、そうそう。一回だけアントンがやってきた日があった」

「いつ?」

「ユーリと出会った頃さ」


 屋敷の外見から誰も訪れないのが利点だったと言われたような気がした。それではまるでフィー達は、何者かから身を隠して生活していたようではないか。

疑問を持ちながらも、アントンという言葉が出てきてそちらに気を取られた。


「あいつが急に現れて、どうしてここにお前達が住んでいる? 家主の許可を取ったのか? と、聞いてきた。だから親父さんの許可は取っていると、言ったらショックを受けていたな」


 その頃のアントンと言えば、私が五歳、フィーが八歳の時だから、彼は十歳ということになる。アントンとしてみれば、亡き母との思い出のある屋敷に見知らぬ者たちがいてさぞ驚いたことだろう。


「その後、あいつは走り去ってなんだ? って思っていたけど、あとからハンナに親父の息子だって教えられた」

「フィーは、その頃からお義父様とお知り合いだったのね?」

「そうなるかな。母さんはけっこう前から親父とは知り合いだったらしい」


 フィーの言葉に引っかかりのようなものを感じると、大人の話を黙って聞いていたノアが「もうかえろうよ。おかあさま」と、言い出した。目がとろんとしてきている。遊び疲れたらしい。お腹も満たされたし眠いのだろう。


「そうね。帰りましょう」

「大丈夫か? 下りれるか? 抱っこしてやろうか? ノア」

「だいじょうぶだよ。おじさん。ぼくそんなにこどもじゃない」


 過保護なフィーは、眠そうなノアに抱っこしてやろうか。なんて言う。キランやドーラはくすくす笑い出すし、ノアは恥ずかしかったのだろう。私の手を引いた。


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