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30話・ブランコ

改稿しました。

「フィーおじさん。もっとおしてっ」

「しっかり捕まっていろよ」

「わー」


 森の中で楽しそうな声が響く。ノアにまたあの森へ行きたいと乞われて、再びガーラント伯爵家が所有する森へ来ていた。フィーが住む森だ。この間の一件もあって彼と今会うのは気まずい気がした。

なるべく避けたいと思っていたのに、ノアはフィーの住むツリーハウスへと行きたがった。行き渋っていると「じゃあ、ぼくだけでいくよ」と、言うので、それを認める訳にはいかない私は同行するはめになった。侍女はこの間、執務室の掃除を手伝ってくれたドーラと、護衛にはキランという腕の立つベテランの中年男性を連れて行った。


 そこでフィーと出くわしたのだけど、フィーの態度は何も変わらなかった。それが肩透かしを食らったようで面食らった。この間のことは嘘だったみたいに何事もなかったような態度だった。それが私としては気になって仕方なかった。


 最近ではいなくなったアントンよりも、フィーのことばかり考えているような気がする。

自分からフィーには、その話題は受け付けないと拒否しておきながら、今度は彼の態度に変化が見られなかったことで、勝手に苛立ちのようなものを覚えた自分が信じられなかった。これではフィーのことを気にしているみたいだ。

ひとりで悶々としていると、フィーとノアのふたりは仲良く話をしていた。


「フィーおじさん、これなあに?」

「ブランコだよ」


ツリーハウスは、以前来た時とは少しだけ変化が見られた。注目して見なければ見落としてしまいそうなほどの変化。ツリーハウスの乗った大木の隣の木に、平らな板が縄で水平に下げられていた。私には見覚えがある。子供の頃にフィーが作ってくれた遊具だ。これで兄や領地の子どもたちと遊んだ記憶があった。


私達のあとをついて来ていた侍女のドーラと護衛のキランは、それらを見て目を丸くしていた。キランはツリーハウスを見て「見事だ」と、声を漏らす。


「ぶらんこ?」


ノアは首を傾げた。


「ノアはブランコを知らないのか? 乗ってみるか?」

「どうやってあそぶの? おじさん。おしえて」

「ブランコはこうして遊ぶものさ」


フィーがまずはお手本だと、自分が乗って伝授する。フィーがブランコをこぎ出すと、ノアは「ぼくもやりたい!」と、興味を示した。

 フィーはブランコを止めて、ノアに乗り方を教える。見ていたドーラが「危ないです」と、止めに入ろうとしたが、私はそれを止めた。


「こうして板の上に座ったら振り子みたいに前後に揺らすんだ。前に出る時は足を伸ばす。後ろに下がる時は足を折る」

「こう?」

「そうそう。それで思い切りこぐ」

「うわぁっ。うごいた!」

「どうだ? 怖いか?」

「ううん。ぜんぜんこわくない。たのし~い」


ブランコに座るノアの背を後ろからフィーが押す。ノアはきゃっきゃっ。と、笑い声を上げ、フィーは、ノアが求めるがままに押し続けていた。面倒見がよいフィーのことだ。きっと彼なら子どもにとって良い父親になりそうだ。


ドーラは初めて見るブランコに危険なものを感じていたようだが、ふたりが楽しそうに遊んでいるのを見て、使い方を誤らなければ楽しい遊具になると知ったようだ。微笑ましく見守っていた。


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