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29話・アントンさまに仕返しなさいませ

「彼女はユリカさまのご実家から同行されたと伺っておりますけど?」

「ええ。私が嫁いできた時に、実家から連れて来ました」

「彼女はアントンさまとも妙に親しい御様子でしたし、あまり良く思っていませんでしたの。先月のベーカーさまの夜会にユリカさまは顔を出されておられなかったでしょう? ノアさまが風邪を召されたとかで御欠席されていて……」

「ベーカーさまの夜会ですか? あったのですか? 聞いてませんわ」


 ベーカーとは御子息が近衛隊に所属している男爵で、元は商人で紡績工場を持ち、ドレスメーカーで成り上がってきた家柄だ。そのベーカー氏とは個人的にアントンや、副隊長のザイルは交流があり、夜会に招かれてもいた。

 私はベーカー家で夜会があったなんて聞いていない。どういうことかとおもえばナンシーが言いにくそうに言った。


「その夜会にアントン様は、彼女をパートナーとして連れておいででした」

「……!」

「しかも彼女が着ていたドレスは、ベーカーさまの持つ洋裁店の新作とかで、招かれていたお客さまがたの注目を浴びておいででしたわ。招かれていたお客さまの大概は、ベーカーさまの取引先の他国の商人の方々ということでしたから、てっきり彼女はモデルを頼まれているだけだと思いましたの」


 ナンシーは夫のザイルと参加していたので、アントンに挨拶に行き、私のことを尋ねたらしい。それに対してアントンはノアが風邪を引いたので私はその看病をしていて参加出来ず、その代わりにアンナをパートナーとして参加したと、近衛隊の仲間や顔見知り達には説明をしていたようだ。


「もう図々しい女でしたわ。我が物顔でアントンさまと腕を組んで、人前でアントンと呼び捨てにするのですから」


 それを許すアントンさまも、アントンさまですわ。と、ナンシーは思い出して不愉快そうに眉根を寄せていた。


「ユリカさまという奥さまがおりながら、侍女をあのような場で着飾らせて連れて来るだなんて。あれではまるで愛人のようではありませんか?」


 ユリカさまに失礼ですわ。と、ナンシーは自分のことのように憤慨していた。それに引きかえ当事者の私は、どこか他人事のように聞いていた。心が凪いでいた。

 アントンの裏切りを知った時はショックだったけど、それまで彼を頼りに思っていた思いは霧散してしまったせいなのか、今となっては呆れた気持ちしか起きなかった。


「そうでしょうね。そのような行動を取ったなら、皆さまにどのような誤解を与えるか考えられそうなものなのに仕方のない人」

「そうだわ。ユリカさま。アントンさまが元気になったなら、仕返しをなさいませ」

「どのような仕返しがいいでしょう?」


 ナンシーが悪戯な笑みを顔に浮かべた。なんだか楽しく思われてきた。


「そうですね。高額なお買い物でもしてみたら如何でしょう? 目が飛び出るほど高額な宝石か、バッグとか?」

「それは楽しそう。返済が終わるまで休みなく夫を働かせる作戦ね?」

「ぜひ、そうなさいませ。ユリカさま。アントンさまを懲らしめるのが宜しいですわ」


 ナンシーは思いやりの人だ。彼女はアントンについて真相は知らないから私を気遣ってくれたに違いなかった。


 私は彼女の思いつきに乗った振りをしながら、アントンに何かしてやらないと気が済まない気がしてきた。どうせやるなら彼をぎゃふんと言わせてやりたい。その前にどうしてこんな事を仕出かしたのか聞き出したいけど。



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