28話・アンナの目的は?
彼女は「近衛隊の奥様の集いの会」なるものを、年に数回開催しているようで、その会に誘ってくれて、他の近衛隊の奥様方との交流の場を作ってくれた。そのおかげでみんなと親しくなり、その会には子ども連れで訪れる奥さまも少なくなかったので、ノアも皆と仲良くなる事ができた。
「ユリカ奥さま。行ってまいりました」
「ありがとう。ドーラ」
帰りの馬車を呼びに行ってくれた侍女のドーラが戻って来たのをみてナンシーがポツリと呟く。
「あら。いつもの侍女ではないのですね?」
「ナンシーさま? アンナのことでしょうか?」
「ええ」
「アンナなら退職しました。家庭の事情で」
「そうでしたか……」
義父から箝口令が敷かれているので、屋敷の使用人達や私は、他の人に聞かれた場合も主人のアントンは静養中で、アンナは家庭の事情で自主退職したことで通していた。
それなら良かったと言う様な態度に見えたので「アンナと何か?」と、聞けば、ナンシーは「あなた達はここで待っていて」と、言い置いて、私と執務室の中に入りドアを閉める。
「彼女には辞めてもらって良かったと思いますわ」
「ナンシーさま?」
滅多に他人の悪口を言わないナンシーが、不快そうな顔をしていた。
「実はユリカさまに御忠告申し上げようと思っていたのです。もうその必要もなさそうですけどね。あの侍女は王子さまや王女さまに不用意に近付いて、何かを聞き出そうとしていました。それを丁度、目撃したので注意致しました」
アンナは、アントンの身の回りの御世話をする侍女として宮殿に上がっていた。王族方の警備も勤める近衛兵を束ねる総隊長つきの侍女ではあっても、彼女は伯爵家の使用人の一人に過ぎない。そのような者が、子どもとはいえ王族である王子さま達に自分から話かけるようなことはあってはならない。身分の高い者から低い者へお言葉をかけるのが当然なのに、彼女から王子さま方に声をおかけしたのだとすれば、無礼者と思われても仕方のない行為だ。
そのことを聞かされて私は驚いた。
「アンナは王子様達から何を聞き出そうとしていたのでしょう?」
「メネラー公爵令嬢のことを聞いたことがあるかと」
「メネラー公爵?」
メネラー公爵は先代の陛下の王弟。現陛下の叔父ぎみにあたる。その公爵には国一番の美姫とされる令嬢がいた。なぜその令嬢のことをアンナが?
「あまりにも気安い態度で王子さま方に接触していたのであ然と致しましたわ」
「申し訳ありません。私の監督不行き届きですわ」
ナンシーから、アンナがメネラー公爵令嬢のことを調べていたと聞き、嫌な予感がした。義父からアンナはトロイル国の密偵だったと教えられていたけど、彼女の目的は分からないままだった。でも、ナンシーの話によると王弟の娘について嗅ぎまわっていたようではないか。




