26話・私はあの人に嘘をつかれていた?
宮殿ではアントンがいなくなったことを、陛下を始め、一部の者が口を噤んだ。表向きアントンは急な病に倒れて、長期の休暇に入ったことにされた。本来なら息子の仕出かしたことなので、義父にもお咎めがありそうなのを陛下の一存でそれは秘され、その代わりアントンを見つけ次第、容赦なく毒杯を与える事を命じられた。
それを行うのは父親である義父の手で行うこと。と、誓約つきで。
アントンは現在このリギシア国から海を渡ったトロイル国にいると、行方を探らせていた者から陛下や義父のもとへ知らせが入ったらしい。トロイル国は軍事国家。そのトロイル国はこのリギシア国と少なからず因縁がある。
トロイル国ではきな臭い抗争が繰り広げられている。きっかけはリギシアのあるご令嬢が王太子のもとへ嫁いだ事。そのご令嬢は大変美しく、夫となった王太子が夢中になったのはもちろんのこと、他の王子達も魅了されたと言われている。
次々と王子達は王太子妃に骨抜きにされて、一人だけ彼女に靡かなかった妾妃腹の第八王子が、王太子妃は何やら怪しい術を用いて兄王子らを垂らしこんだとして、陛下に言上して王太子妃を断罪しようとした。
その第八王子一派の怪しい行動を読んだ王太子や、他の王子達の手を借りて王太子妃は祖国であるこの国へ舞い戻って来たが、トロイル国では亡くなったことにされた。真相を知る王太子や、他の王子たちは抗争の最中で命を落とし、老いた先代の王は、息子達の死の知らせに嘆き悲しみ死んでしまい、後に残った第八王子が当代の王となっている。その王は好戦的で領土拡大の為、他国侵攻を企んでいると言われていた。
その王は国家を独占しようとし、それをよく思わない一派が内紛を起こしてトロイル国は揺れているらしかった。アントンはどうもその王の食客となっているらしい。アンナはどうもトロイル国がこの国に送り込んだ密偵だったそうだ。
それを告げた義父は苦々しい表情をしていた。
「……」
真実を知った私はなんと言っていいものか分からなかった。アントンは戦犯になりかけている? 彼はこの国を売ろうというの?
「アントンは恐らくこの国には帰って来ることはあるまい。このようなことになろうとは……」
「お義父さま。アントンさまがそのような大それたことを企むなんて信じられません」
ふたりは叶わない恋を押し通す為に駆け落ちしたのではなかったの? アントンの行動が理解不能だった。
「アントンは、私のことが許せぬのだろう。マルゴットとフィオンのことを憎んでいたようだから」
「お義父さま」
確かにアントンは義父を嫌っていた。憎んでいたと言ってもいい。でも、それとこれとは別だ。個人的感情で国を売るだなんて馬鹿げている。
「アントンさまは確かに、お義父さま達のことを良くは思われてないようでした。お義父さまが亡きお義母さまが寝付いていた時に、マルゴットさまと気持ちを通わせていて、お義母さまの喪があけたと同時に、マルゴットさまと義弟のフィオンさまを屋敷に迎えられたのが面白くなかったようです」
「きみにはそのように話していたのか。マルゴット達のことはちゃんと説明していたし、アントンも納得していた。彼女達は一時期、訳あって保護していた時があった。でも交際なんてしていないし、情も交わしていない。それにあれの母親が亡くなったのはマルゴット達に会う前だ」
「……!」
義父がいうあれとは、アントンの亡くなった母親のことと知れた。でも、そうなるとアントンの言っていた話と大分内情が変わってくる。
「ではマルゴットさまがお義父さまの愛人だったというのは……?」
「冗談じゃない。それはマルゴットに失礼だ。彼女は私の愛人だったことはないよ。私たちが再婚したのはフィオンの勧めで四年前のことだからね」
と、いう事は、義父のデニスが再婚したのは私達の挙式の一年前。アントンの話と全然違う。義父は再婚したのはフィオンの勧めだったと義弟の名前を出した。これはどういうことなのか? この場にいないアントンに問いただしたくなってくる。
「私はあの人に嘘をつかれていた事になるのでしょうか?」
「……済まない」
義父がこの場にいない当人に代わり謝ってきた。




