21話・アントンとアンナの関係
姉が産んだ第一王女のフレアさまはノアより一つ年上だけど、姉の希望によりノアがお遊び相手として何度かお城に上がっていた。
「ふ~ん。だからおじさんと、おかあさまはなかがいいんだね? おとうさまとアンナもそうなんだってね」
「えっ?」
ノアの思いがけない言葉に、思わずフィーと顔を見合わせてしまう。
「おとうさまが、アンナとはじめてあったときにびっくりしていた。なつかしいっていっていたよ」
「そうなの? 知らなかったわ。でも、アンナの実家はこちらにあるからどこかでふたり知り合っていたのかもしれないわね」
言われてみれば、アンナの実家はこちらにあると聞いていた。ふたりが子どもの頃に知り合っていたとしてもおかしくはない。でも、それならアンナも教えてくれても良かったではないかと思う。
アンナは使用人としての立場を慮ったのか、ガーラント家に嫁ぐ私に付き添ってきた時には、そんな素振りは全然みせなかった。アントンとは初対面のように振る舞っていた。
心に疑心が湧いてくる。ふたりはその時から私や周囲を欺いてきた?
アントンがアンナを連れて駆け落ちした日、屋敷の使用人達は皆、がく然としていた。信じられないと口々に言っていた。ふたりにはそのような雰囲気は全くと言っていいほど感じられなかったと。皆が半信半疑で信じたくない様子だった。それだけ二人は周囲に、その関係を匂わせないように細心の注意を払ってきたに違いなかった。
そのふたりが以前にも面識があった可能性が出てきた。いつから親しくなっていたのかは定かではないけど。
「ノア。次、引いてるぞ」
「あっ。ほんとうだ」
フィーがノアの竿がしなっているのを見て言う。ノアが駆け出していくのを追いながらフィーが振り返った。
「アンナはここの領地の出身なのか?」
「実家がこの領地にあるのよ」
「そうか。子どもの頃からの知り合いだったのかもな」
「おじさ~ん」
「今行く。待ってろ」
私達の会話は途中で止まった。ノアがまた何かを釣り上げたようだ。フィーはまた魚籠の中にノアの釣った魚をいれていた。
「ノア、凄いな。さっきより大きいぞ」
「えへへ。おじさん、ぜんぜんつれてないね」
「まだまだこれからだからな」
褒めたフィーに、ノアが挑発するように笑う。フィーはその挑発には乗らないように見えたが、数分後には「ノアには負けてられないな」と、釣竿に真剣に向き合っていた。横ではそのフィーをノアが嬉しそうに見ていた。案外、ふたりは気が合うのかもしれない。
仲の良いふたりが羨ましく思えてきた。
「ねぇ、フィー。私も仲間に入れて」
「おっ。ユーリもやるか?」
「もちろんよ。見ているだけじゃつまらないもの」
空いている釣り竿を貸して。と、言えば、フィーが快く一本の竿を貸してくれた。ノアは目を丸くしていた。
「おかあさまもつりができるの?」
「ああ、おまえのお母さまは上手いぞ。子供の頃、渓流釣りの天才だったんだ。今はノアが天才だけどな」
「ノアには負けてられないわね」
「ぼくもがんばる」
「じゃあ、競争だな」
三人で肩を並べて釣り糸を垂れる。なんだか愉快になってきた。




