20話・幼馴染ってなあに?
「おじさん、おじさんっ。はやくっ。つりざおがしなっている」
「思い切り引くんだ。ノア」
数日後、私はフィーに誘われてノアと川に来ていた。ガーラント伯爵所有の森に小川が流れていて、森が川の上流にあるということもあり、川幅の狭い渓流で釣りに誘われたのだ。
誘われた当初はノアが小さい事で躊躇したものの、本人がやってみたいと言ったのでそれを叶える形となった。今日はノアにとって初めての釣り体験だ。フィーは釣りをしたことがないノアの為に、手作りの釣り竿を用意していて、そのうちの小さな1本の竿をくれた。
ノアはつり竿で魚を釣ると聞いて、水面につり竿をたらした瞬間からじっと竿の先を見つめ、わくわくしていた。
その気持ちが伝播したように、見守る私も期待に胸が膨らむ。
「おかあさまはみててね」と、ノアに言われ待つこと一時間。つり竿を見つめるふたりの後ろでピクニックシートを広げて見守っていると、ノアがフィーを早く早くと急かし出した。
そこへつり竿がしなって、魚が釣れた! と、喜ぶノアから急かされた形のフィーは笑いながらノアの側に来ると、竿を引っ張らせた。その間、彼は後ろに立ちノアの体を支える。
「ん、ん……!」
「ノア。頑張れ」
ノアの初めての釣りに、私は自分のことのように心配になっていた。ふたりの共同作業から目が離せない。ノアがフィーの助けを借りて持ち上げた竿の先に小魚がかかっているのが見えた。
「おかあさま、みてっ。ぼく、やったよ」
「まあ、すごいじゃない。ノア」
「ノアは筋がいいな。初めてなのにもう釣り上げるなんて天才だな」
ノアが釣った魚を、フィーが魚籠に入れてくれる。
「後で焼いて食べような」
「うん。おかあさまにあげるね」
ノアは目をキラキラ輝かせていた。なんだかそれがフィーの子どもの頃に重なった気がした。好奇心旺盛で何事にも一生懸命に取組んでいた彼は、成人してノアの隣にいる。それがなんだかこそばゆく思われた。
「どうした? ユーリ? 俺の顔に何かついているか?」
「目と鼻と口以外には特に何もついてないわよ」
「そっか」
フィーを見つめる形となっていたらしい。ノアが私の前でどうしたの? と、大人二人の顔を交互に見てくるから、つい、ぞんざいに接してしまった。
「ユーリ。なんだ照れてるのか? 昔から変わらないな」
その発言に軽く苛立ちを覚える。フィーとは気安い仲だけど、あの頃の彼は鈍感だった。その彼が何を言う。
「おかあさまとおじさんはなかがいいね」
何も知らないノアはニコニコと笑い、フィーはそれにたいして身を屈めて言った。
「幼馴染だからな」
「おさななじみってなに? おかあさま」
「幼い頃に仲良くしていた友達のことよ。ノアにもいるでしょう? フレア王女さまが」