13話・あなたから会いたいなんてどうしたの?
数日後。私は後宮にいた。姉に会う許可が下りたのだ。実の姉にあうだけなのに緊張する。でも姉の顔を見た途端、その緊張もほぐれた。
「ユリカ。元気にしていた?」
「マレーネお姉さま。いえ失礼致しました。側妃さま」
「嫌だわ。姉妹なのだから畏まらないで」
つい、姉の私室に通されて呼びかけてしまったけれど、女官達の視線が気になって言い直すと、姉のマレーネが苦笑した。
「あなた達、呼ぶまで下がっていていいわ。女官長。お茶の支度をして頂戴」
女官達が静かに退出して行く。その場に残った女官長もお茶の支度をすると、「何かあればお呼び下さい」と、私達姉妹に気を利かせてくれたのか言い残し、退出して行った。
私の五番目の姉マレーネは、母親譲りのストロベリーブロンド色の髪の持ち主で、空色の瞳をした美人。陛下の寵愛を恣にしている側妃だ。陛下が数年前に我が領地に視察で立ち寄られた際に、マレーネを見初めて側妃となされた。
マレーネは私より二つ年上で、見初められたのは十六歳の時。私は当時、十四歳だった。陛下は三十二歳で十六歳年下の姉に一目惚れをしたらしかった。姉を前にして顔を赤らめてそっぽを向かれるので、滞在中はどこか体の具合が悪いのではないかと、そちらの方には疎かった私は思ったものだ。
まさか陛下が宮殿にお戻りになられてから姉宛に連絡が来るなんて思わなかった。当然、陛下には政略結婚で隣国から迎えられた王妃さまもいらしたし、姉の後宮入りの話が急遽、持ち上がって大丈夫なの? と、心配した。
社交界でさえ、女性達が集まると見栄の張り合いや、口の煩い人がいる。女の園に入り込んで姉が王妃さまや、ほかの側妃さまに虐められないかと心配して、私は姉の後宮入りを阻止しようとした事もある。
でもそれは杞憂だったようだ。実は姉の後宮入りを勧めたのは王妃さまだったらしい。陛下は姉に惚れたことを認めたがらず、宮殿に戻ってからも一人そわそわしていたようで、そんな陛下の心の変化を読み取った王妃さまが呆れて事を起こしたらしい。
それに慌てた陛下だったが、王妃さまが王太子に兄弟を作ってあげようにも自分では年がいって体力がない。若い子にその役目を任せたい。どうせならあなたが好きなお相手に頼みたいわ。と、おっしゃられたそうだ。
王妃さまは陛下より九つも年上だそうで、御二人の仲は姉と弟のように仲がいいらしい。陛下は姉に一目ぼれしたことを、しばらく王妃さまにからかわれていたようだとも姉から聞かされた。
姉は王妃さまにも可愛がられているようで、王妃さまとも仲が良い。側妃となってからすぐに身篭り今、七歳になる王女さまと、四歳になる王女さまがいる。
姉と向かい合わせに席に着く。芳しい紅茶の香りを堪能していると聞かれた。
「ユリカ。あなたから会いたいだなんてどうしたの? 何かあった?」
「お姉さま。実は私、アントンさまから離婚したいって言われたの」
「ええっ? ガーラント近衛総隊長が? なぜ? どうしてそんな話になったの?」
姉は滅多に連絡してこない私から会いたいだなんて言われて、何かあったのでは? と、察したらしい。身内であった気安さから打ち明けると驚かれた。
「あなた達、何があったの?」
「分からないわ。私だって何がなんだか。私に何も不満はないと言うのだけど、子ができる様子がないし、好きにやりたいと言われて……」
「はああ? 何それ」
マレーネが不機嫌そうな声をあげた。