表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/116

◇許嫁の母親

「リー。どこ? どこにいるの?」

「ここよ────」


 庭から楽しそうな声が風に乗って聞こえてくる。ノアが許嫁の辺境伯令嬢オリガと遊んでいるのだ。陛下のお声掛かりで決まったこの婚約で、レアド辺境伯夫妻はお披露目の為にしばらく王都にある屋敷に滞在していた。

領地の方を、当主不在で長く空けておくことは出来ない為、あと一週間ほどで辺境伯夫妻とその娘のオリガは帰省することになっていた。

 幸いにも、初対面からしてノアとオリガは意気投合したようだ。ノアは彼女を「リー」と、愛称で呼ぶくらい気に入ったようで、あと一週間で彼女が領地に帰ると知った時には残念そうにしていた。

 私は屋敷の二階のバルコニーに設けた席で、レアド辺境伯夫人ジュアンヌと談笑していた。ここからだと庭の子供達の様子が良く見える。二人はおいかけっこをしていたと思ったら、いつの間にか木登りに変わっていたようだ。

 するすると登っていくオリガの後を、ノアがもたもたと後を追うように登って行くのが見えた。大木に登っている娘を見て、辺境伯夫人は目を剥いた。


「リーっ、危ないわ。降りなさい」

「だいじょうぶよぉ。おかあさま」

「大丈夫じゃありませんっ」


 暢気にも枝に腰を下ろして手を振ってくる娘に、夫人は大声を張り上げ、私と目が合い、罰が悪そうに言った。


「申し訳ありません。娘はお転婆が過ぎまして……」

「子供は元気が良いくらいが良いですわ」


 娘の未来の姑となる私に、娘の心証を少しでも良くしたいという母親の気持ちは良く分かる。でもまだふたりは七歳。躾は大切だけど、遊ぶときぐらい伸び伸びさせたいと考えている私は、オリガがお転婆なことは全然気にならなかった。

私もそのぐらいの時は兄たちの後を追いかけ回していたものだ。自分が出来なかったことを子供達に求めるのも変な話だしね。


目の前の物静かな辺境伯夫人は、ハラハラと心配そうにオリガを見ていた。オリガは母親似の外見をした美少女で、母譲りの顔立ちに金髪、青い目をしていた。父親の辺境伯は灰色の髪に青い瞳をしている美丈夫なので、二人のそれぞれ良いところをもらった感じだ。

 キャー、あははは。と、子供達の笑い声が聞こえてくる中で、辺境伯夫人が申し訳なそうな顔をして言う。


「お恥ずかしい限りです。自然に囲まれて育ったせいなのか奔放過ぎまして」

「リーちゃんは良い子ですよ。ちゃんとご挨拶は出来ますし、他の人を害するような発言はもちろんのこと、傷つけるような行動は取りませんしね」

「ユリカさま」

「残念ながらそれすら出来ていない子もいるのです。リーちゃんは優秀ですわ」


 躾が行き届いてなくて申し訳ありませんと言う辺境伯夫人に、私はそんなことないですと言った。そんなことを言ったら、他の貴族の子達は全然出来てないことになる。

私は姉が側妃でノアが王女殿下の遊び相手ということもあり、何度か宮殿に上がる機会があった。

そこで殿下達の取り巻きになるべく、親に連れられてご挨拶伺いへとやってくる貴族の子女らの中には、全然目上の者に対しての態度や言動がなってない者がいた。特に高位貴族になる者ほどなっていなくて、この先、彼らが成長したらどうなることやらと不安を覚えてしまった。


大概、そう言った者たちは、王子、王女殿下の養育係から危険視されて遠ざけられてしまうのだけど。

貴族の結婚が政略的なもので、親は子供を産んだらすぐに乳母や子守任せになって、子供のことなど見てないからではないかと姉が気にしていた。陛下もそれに危機感を持ったらしい。年々そう言った子が増えて来ていることに頭を抱えていたらしい。


フィーに聞くところによると、ある日の会議で大臣達の前でそのことを指摘し、王都の貴族子女らが集って学べる場を設ける事を決定したそうで、その施設の建設が来月から始まり、出来上がれば、そこに貴族子女らを通わせて教育指導することになるらしかった。

オリガはそう言った子らと比べるでもなく、礼儀正しいよい子だ。お転婆なんて私から見れば指摘する問題でもない。


「リーちゃんはリュートが弾けるそうですわね? ジュアンヌさま」

「ええ。私の祖父が吟遊詩人だったのです。特に教えたわけではないのですが、祖父の形見のリュートをおもちゃにして遊んでいるうちに自然と奏でることを覚えたみたいです」

「凄いですわ。才能なのでしょうね。一度、聞かせてもらいたいものですわ」

「そんな……。手慰み程度ですから……」


 私の発言を聞いてやんわりとお断りしようとする辺境伯夫人。遠慮からなんだろうけど、そうも引かれてしまうと、親密になりたいと思っているこちら側としては、距離を置かれているように思われて寂しいと思った時だった。


「えっ。ほんとうですか?」


 と、愛らしい声がしてオリガがノアと共に入室してきた。二人とも外で遊び疲れたのか、一時休憩することにしたらしい。


「ユリカさま。きいてくださいますか?」

「弾いてくれるの?」

「はい。ユリカさまにわたしもぜひ、きいてほしいです」


 オリガがニコニコして言う。それを見て辺境伯夫人は「リー」と、引き止めようとしていた。


「聞かせて欲しいわ。私もノアも楽器には興味があるけど弾けないんだもの。ねぇ、ノア」

「うん。ぼくもリーがひくところみてみたい。もし、よかったらこんど、はっぴょうかいしようよ。みんなにもきいてもらおう」

「とんでもない。発表会だなんて。そのような大それたものを」


 辺境伯夫人は目を剥いた。ノアはオリガの母の様子を見て「ぼく、なにかおかしいこといった?」と、首を傾げる。その態度からもしかして辺境伯夫人が勘違いしているのではないかと思った。


「二人とも発表会と言っても、別に大勢人を呼ぶとかじゃないわよね? 観客は私とフィオンにキラン達くらいよね?」

「うん。あと、リーのおとうさまとおかあさまにもね」

「ミニ発表会ならよろしいのではなくて? ジュアンヌさま」

「そうですわね、それぐらいなら構いませんわ」


 私の発言で自分の勘違いに気づいたらしく、ジュアンヌは大きくため息を漏らした。その態度にオリガはどうしたのかと聞いた。


「おかあさま。さきほどはなにをおどろいてらしたの?」

「驚きもするわ。リー。発表会なんて言うものだから、お母さまはてっきり大勢の前であなたがリュートを弾くことになるのかと思ってハラハラしたのよ」

「そんなはずないじゃない。おかあさまはそうぞうりょくがゆたかね」


 カラカラと笑うオリガに、ジュアンヌは苦笑を漏らしていた。レアド辺境伯夫人は、子供を卑下していたのではなく、その身を案じていたらしい。私はジュアンヌの性格が分かったような気がした。この人は用心深いだけなのだと。

 私は彼女に探られていたのだろう。娘を預けて良い人物かどうかを。ゆくゆくは娘が嫁ぐことになる家だ。政略結婚といっても娘を苦労させたい親はいない。特に女性は、同性なだけに娘を思うと見る目が辛くなりがちだろう。

 さて私はレアド辺境伯夫人から及第点をもらえたのだろうか?


「じゃあ、はっぴょうかいはいつにしようか?」


 と、盛り上がる子供達の後ろで私は、ジュアンヌと微笑み合った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ノア君7歳なのにもう婚約者を作るのですか? アントンもユリカもその歳で婚約者がいたワケじゃないのに、そんな勝手なことを頼んだのですか? ノア君、未来の伴侶をユリカに勝手に決められて可哀…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ