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短編集

彼女からの別れ話

 本日、午前九時。

彼女と入る喫茶店はどこか寂しく見える。いつもならこれから何処に行くかなどを話し合う場だが、今日は違う。


 今日、僕と彼女は……別れる。

別れると言っても、僕は別れたくない。

しかし彼女には僕に対して不満が溜まっているらしく、もう今すぐにでも別れたいと言ってきたのだ。

 僕はそんな彼女を宥め、とりあえず話だけでもしてくれと、いつもの喫茶店へと誘ったのだ。


「それで……なんで別れたいなんて……僕に不満があるなら直すからさ……」


彼女は僕の言葉を鼻で笑いながら、突然ビールを注文。

そのまま鞄の中から懐かしいゲーム機、ワンダー〇ワンを取り出しプレイし始めた。


「あの……とりあえず会話してくれない?」


 再び僕の言葉を鼻で笑い、ビールが来るとそのまま一気飲み。

そしておかわりを注文し、今度は僕へとワンダース〇ンを渡してきた。

プレイしろという事だろうか。


「え、いや……今はゲームなんて……」


 相変わらず、彼女は僕が一言発する度に鼻で笑ってくる。

なんだろう、もしかして新しい健康法なのだろうか。

鼻で笑うと美容にいいとか……


 ちょっと試しに僕も鼻で笑ってみよう。


「ねえ……何あのカップル……鼻で会話してるよ……」


「ウサギみたい」


 酷く心外なヒソヒソ声が耳に届き、僕は思わず自分の鼻を隠すように両手で覆う。

それを見て、また彼女は鼻で笑ってくる。なんだろう、今凄い屈辱感を憶えた。


 もうこうなれば容赦しない。

僕も彼女へと、この屈辱感を味わわせてやろう。


「ビールの泡で白髭が出来てるよ、君」


すると彼女は、それがどうしたと言わんばかりに鼻で笑ってくる。

なんでデカイ器の持ち主だ。思わず尊敬の念を隠し切れない。

 ダメだ、もっと激しい屈辱感を味わわせてやらねば。


「寝ぐせ付いてるよ。ちゃんと直してこないと」


 だからそれがどうした、と鼻で笑う彼女。

何故貴様と会う為に寝ぐせを直す必要があるのか、と言わんばかりだ。


っく、ダメだ。このままでは僕のHPゲージは減る一方だ。

何か……武器は無いのか?


 その時、店員がおかわりのビールを持ってくる。

僕はそれを奪い、一気に煽った。しかし朝一からビールに咽てしまう。

不味い、また彼女に鼻で笑われ……


「ぁ、すみません、ビールおかわり」


 しかし冷静におかわりを注文する彼女。

なんだ、ここでは笑わないのか? 何故笑わない!

今こそ笑うべきだろう、酷い、酷すぎる。


 そこで僕の心情を読み取ったの如く鼻で笑ってくる彼女。

うわ、やべえ……今のはマジで刺さった。


「あ、あのさ……とりあえず本題に入ろうよ。この小説のタイトル通り別れ話しようよ」


だが彼女は作者を嘲笑うかの如く鼻で笑いつつ、鞄から折り紙を取り出し鶴を折り始めた。

何故そんな物を持っているのだ。僕にも一枚よこせ。


「ねえ、あのカップルさっきから何してんの? 今度は折り紙してるよ」


「パンダみたい」


 どこをどう見ればパンダに見えるのか興味が尽きないが、僕と彼女は黙々と鶴を折る。

そして完成させ、テーブルの上に鶴を並べると……微妙に僕の鶴の方が、折り紙の……裏面、つまりは白い部分が見えてしまっている。そこで彼女はつかさず鼻で笑う。


 くっ……また負けてしまった。

今度は負けない、二枚目を寄こせ!


 いや、待て。

今度は久しぶりに手裏剣を折ろう。

なんだか楽しくなってきたぞ。


 折り紙を半分で分け、二つのパーツに分けて手裏剣を作る僕。

すると彼女は僕の真似をしつつ同じ様に手裏剣を降り始めた。どうやら彼女は折り方を知らないようだ。これなら勝てる。僕は幼少の頃より、忍者秋田犬と呼ばれる程に手裏剣を作るのが上手かった。これで彼女を鼻で笑えるぞ。


「よし、できた」


 完璧な手裏剣が完成した。

どうだ、この美しく見事な手裏剣。

とくとみよ!


 しかし再び鼻で笑ってくる彼女。

なんと彼女の手元には、二匹のウサギが餅つきをする様子が見事に表現されていた!

 

すげぇ! これどうやって折ったんだ!

ちょ、教えて!


 すると彼女は三枚目の折り紙を僕へと手渡してくる。

そのまま二人で折り紙を折り続けた。いつの間にか僕達の傍らにはビールが置かれており、朝一から酒を飲みながら折り紙を折り続けるというシュールな光景が広がっている。


「出来た……」


 彼女に教えてもらった通り、まるで月の中で餅つきをするウサギ二匹を完成させた僕。

なんて幻想的で可愛い。僕は感動のあまり、彼女へと自分が制作したウサギを見せつけるが……


そこで彼女はまたもや鼻で笑う。

それもその筈。彼女の手元にあるのはエッフェル塔に凱旋門。

何という事だ。彼女は僕にウサギの折り方を教えながら、パリの街並みを表現していたというのか。


「っく……負けた……」


 負けた、完全に負けた。

凱旋門の細かい彫刻まで折り紙で表現してしまうとは。もはや人間業とは思えない。

 

 しかし彼女はドンマイ、と僕の肩を叩きながらビールを再び一気飲み。


……というか、別れ話は?


本当に今更だが、そろそろ本題に入りたいのだが。


「あのさ、折り紙はもういいから……そろそろ別れ話を……」


 すると今度は鞄の中から地球儀を取り出す彼女。

だから何で鞄の中にそんな物を……。


「日本……あぁ、あったあった」


思わず自分の母国を探してしまう僕。

すると彼女は鼻で笑いながら、アフリカのとある国を指し示してきた。

その国はエリトニア。


 アフリカの北東部に位置する国で、氷河期の末期には既に人類が住んでいたと言われている。

すると彼女は鞄の中からオセロを取り出し……


ってー! いやいや、なんだったの?! エリトニアなんだったの?!


何オセロ始めようとしてんの?!


「って、僕黒?」


 そのまま普通にオセロを始める僕達。

オセロって確か……最初の方は多く取らない方が良いって誰かに教えてもらったような……


って、あれ? なんか……真っ白になっちゃったんですけども。


 あぁっ、また鼻で笑われる……!


「フォッフォッフォッフォ」


ちょっとまって、何その笑い方。

もしかしてバル〇ン星人? あぁ、光の戦士助けて……


「って、違う違う、別れ話したいんだけども……っていうか君、なんで僕と別れたいの?」


 彼女は何も答えない。

すると今度は鞄からパンダの絵がプリントされたカレンダーを出してきた。

携帯で良くない? という僕の心のツッコミはスルーされ、彼女はそっと……今日の日付を指さした。


 今日、四月一日……



 



 アーッ!

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