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音しか聞こえない霊体験

深夜の訪問者。

作者: たれみみ

 深夜の訪問者。


 以前私が勤めていた会社は一階が人気のレストランだった。

 車通りの多い道から少し外れた場所で、近くに緑地があり、川のせせらぎ位しか聞こえる音もない。

 四階にある会社で残業をしていると、楽しげで上品な笑い声がよく聞こえてきた。

 ランチタイムでも私には手が出ない価格帯で、いつか食べてみたいと思っていた。


 オープンテラスに揺らめくキャンドル。見つめ合う男女。


 その横を残業疲れでゴミ袋片手に集積場へ、フラフラ歩く私。

 なかなかシュールな光景だなといつも思っていた。


 勤めている会社は広告代理店で、何名かのデザイナーと事務員が在籍していた。

 私は別の部署だったので深夜残業は殆ど無かったが、デザイナーはよく徹夜で作業をしていた。


 私の部署は仕事上、毎日宅配を利用して、受け取りは事務員が行なっていたが、不在時は自分でも対応していた。


 エレベーターのポォンという到着音に、会社の鉄扉をノックする音。

 お世話になりますと挨拶する声に、鉄扉がガチャンと閉まる音。

 元気な配達員さんは、外階段をカンカンと駆け降りていくこともあった。

 爽やかな配達員さんは皆の人気者だった。


 社内は多国籍で日本語が不得手な人もいた。

 折角なのでフィリピン人にタガログ語を教えてもらったが、シブヤスが玉ねぎということしか覚えられなかった。

 もし日本名で渋安さんだったら、玉ねぎさんと思われるのかと印象的で覚えられた。

 今のところ役には立っていない。


 インド人にはアラーのお祈りについて教わった。

 だが残念ながら英語中心だったので、方角と回数しか解らなかった。

 その人は時間になると礼拝用敷物を持って外階段に向かっていた。

 一度礼拝中に、知らずに外階段の鉄扉を開け、気不味かったことがある。

 神聖な場に土足で入り込んだ気分だった。


 中国人のチャイナドレスは美しいと思った。本当に素晴らしい刺繍だった。

 ただその人は食事時間が大変自由で、いつも自分で延長していた。

 中国人は食事時間は長くとると主張していた。

 未だに答えは不明だ。


 そんなこんなで、人々と交流して時間が過ぎていった。


 私の仕事は月末が多忙だった。

 たまにある深夜残業が月末だった。

 その日はデザイナーも複数残業していて、泊まり込む勢いだった。

 マウスをクリックする音をBGMに、コーヒーで眠気を飛ばしながら仕事に精を出していた。


 そんな時、ガチャと鉄扉が開く音がした。


 こんな深夜に誰が来たんだろうと思い、入り口に向かうと誰もいなかった。

 そういえば、エレベーターの到着音も、外階段の開閉の音もしなかった。

 不思議に思い、デザイナーの一人に扉の音の話をしてみたら、いつものことだから気にしなくていいと言われた。

 そんなものなのかなと思いつつ自席に戻ろうと扉に背を向けた瞬間、閉まっていた鉄扉からバァーンと勢いよく閉める音がした。


 扉は静かに閉めようよ。とずれたことを考えながら、再度デザイナーに聞いてみると、いつも誰かが訪ねてくるけどデザイナーは職人だから接客はしない。と言い切られた。

 確かにこんな深夜に事務員はいないので、いつも放置だったのならなんて不憫なと思い、勇気を出して、


 いらっしゃいませ。いつもお世話になります。


 と宅配業者と同じ声かけをしてみた。

 その場では何も変化はなかったし、その後の音もなかったが後日変化があったらしい。


 深夜にガチャっと扉の音がすると、デザイナー達は作業の手は止めず、いらっしゃいませ。いつもお世話になります。と言ってみたとのこと。


 するといままで大きな音がしていたのに、静かにカチャンと鉄扉の閉まる音がしたそうだ。

 声かけするだけで平和な感じよ、と言っていた。


 でもデザイナーは職人なので、声しかかけないそうだ。

 そんなこんなを事務員に話してみたら、昼間も頻繁にあるとのことだった。

 そんなに頻繁に訪問者がいることに衝撃を受けたが、平然としている事務員にも愕然とした。

 結果、日中も深夜も鉄扉が勝手にカチャカチャ鳴るだけで、今でもその会社は始業している。






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