女神様の宝石箱9
何となく気分の良くなる夢を見ていたように思う。
ぼんやりとした思考の中、ピタッと冷たい感覚が頭を冷やした。
渇いた唇にそっと濡れた脱脂綿が触れる。
水か……ぼんやりとそんな事を思った。
次第に頭のモヤモヤがクリアになっていく。
今何時だろう?
あれから何日過ぎた?
まさか、兄上達に命を狙われるなんて思ってもいなかった。
そう思いうっすらと目を開けた。
すると、コクリコクリと船をこぎながらストールを羽織ったあのジュリアと言う女が、ベッドの隣に椅子を置いて陣取っていた。
どうやら看病をしているらしい。
「へぇ~。あの噂の高慢ちきお嬢様がね」
ニタニタと笑いながら彼女を観察する。
公爵令嬢が着るとは思えないほどの簡素なワンピース。
警戒心の欠片も見受けられないあどけない寝顔。
案外噂とは当てにならないものだ……と笑いが溢れてしまう。
「こんな正体の怪しい男を助けたと思ったら、無防備にも二人きりになるとか……危機管理がなっていないな」
そう思うと尚更笑みが零れてしまう。
髪は珍しいブループラチナ。
瞳の色はグリーンだったか。
無意識に俺の手が彼女の方へと伸びて行く。
そして、そのプルプルの頬に触れようとそっと手を伸ばした。
違和感は直ぐに起きた。
触った感じが想像していた感触を伴わない。
見た目にはプニプニと押している様なのに……不思議である。
「どういう事だ?」
眠っているのを良い事に彼女の体も触ってみる。
試しに抱き締めてみると見た目的には俺の手が回ると思えないのに、何故か手が回ってしまった。
挙げ句、回した腕は余裕で余っている。
その証拠に背中で思いっきり腕が交差出来る。
そう言えば昨日手首を掴んだ時も変だとは思ったのだ。
「どういう事だ?まさか幻影……」
いや……だいたい何故自身を不細工に見せる必要があるのか?
「では、呪いか?」
そう言うと彼女の身体が揺らめき一瞬だけ小柄な美女が見えた。
そして、それは一瞬の事で直ぐに元に戻る。
「マジか……」
大抵の呪いはその存在が知られてしまうと揺らぐ事がある。
軽い物ならその呪いの存在を肯定すると消える事もあるのだ。
だが、今は一瞬だけその存在が消えた。
「まぁ、あれだけ悪評が流れているんだ、呪いの一つや二つ掛けられていても不思議ではないな」
しかし、先程見た彼女の美貌はなかなかお目にかかれない。
俺の妹よりも美人とか、なかなかいないな。
そう思うと思わず笑ってしまった。
「とんだ掘り出し物だな。帰る時に土産に貰って行こうか?」
クックッと笑いを漏らす。
しかし、あれからどれだけの日が経ったのか。
そう言えば俺の荷物は……。
そう思い部屋を見回すとテーブルの上に綺麗にされた状態で置かれていた。
ベッドから抜け出すとそれらを確認する。
『全てあるな』
そう思い古びた眼鏡を取り上げ、それを掛けてから彼女の方を見た。
俺が作った魔道具の一つで、全ての真実を見る事が出来る眼鏡だ。
「こんな美人を見れないなんて勿体無い事をしてくれるね」
記憶が無いなんて大嘘である。
今は命が狙われている為に身を隠す必要があった。
「でも、あの見た目では誰も欲しがらないか、挙げ句性格に問題があると噂にあるようだし」
そう言って彼女をベッドに寝かせ添い寝してやる。
「こんな得体のしれない男を看病とか……本当に気が知れないな……」
そっと触れた髪に何とも言えない思いが隠る。
その気持ちの正体に自身の首筋が疼いた。
「起きた時の君の顔が楽しみだ」
そう言って唇にキスを落とした。
「おやすみ。俺のジュリア」
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