女神様の宝石箱44
精神的な公開処刑を済ませた私達は普段の授業に戻っていた。
表面的に。
授業中囁かれる言葉に精神的な疲労を伴う。
「デブは何しても様にならないな」
「あれで公爵令嬢?何、庶民にヘコヘコしているんだか」
「アルってイケメンだから愛想尽かされないようにしているんじゃない」
「ここまで来ると哀れだよな」
「男の方も、どうせ金目的だろう?」
「見た目は兎も角、あの豚身分だけは良いからな」
滅茶苦茶聞こえている。
誹謗中傷も甚だしい噂話をクラス全体がクスクスと笑ってしている。
そんな状況なのに注意する事もない古参の先生。
本来なら先生が注意すべき所なのだろうが、身分の高いノア王子はこの状況を無視している為に放置されてしまっている。
そう、この現状を打破するのは王子であるノアがすべき事なのだ。
本来なら王族であり、民を導く立場にある彼がクラスをまとめあげなくてはいけないのに、あいつは我関せずを貫いている。
こんなに声高に中傷していたら廊下まで聞こえるよね。
いくらMっ気ある私だって、これはないと思う。
これじゃあ、ただのいじめだ。
こんな乙女ゲームの中までも、いじめがあるなんて……もう最低……。
うつむきながらそう思っていたら、隣にいたアルが机の上にある私の手にそっと自身の手を乗せ優しく微笑んだ。
まるで私を元気付けてくれるような包容力にクラクラ来てしまう。
そして、アルはすっと前を見るや勢い良く立ち上がった。
「先生。発言をお許し願えないだろうか?」
ビリビリと威圧的に言うアル。
完全に先生に伺っている態度ではない。
案の定先生は壊れたオモチャのように頭を上下にしているだけ。
すると、アルは不適な笑みを見せた。
「さて、先生の許しも得たらので一言言わせて貰う」
アルは噂話をしていた生徒を一人一人と確認するように見据えた。
「私の事なら兎も角、ジュリアの悪口を言う輩は私が許さない。君達の顔と名前は確実に覚えた」
冷ややかな目でそう言うと、噂話をしていた生徒達が一瞬で怯む。
固唾を飲み込んだ生徒達が自分の正義の在りか求めてノア王子を見た。
ノア王子は気だるそうに立ち上がるとアルの方を見る。
「アル……と言ったか。授業に関係ない事を言って我々の貴重な学びの時間を妨げるのはどうかと思うな」
あの甘々ワンコのようなノア王子とは思えないような口調。
あっ、でも悪役令嬢には結構辛辣だったか……。
「それが一国の王子の対応とは……嘆かわしい事だな。この国の王子教育はどうなっているのか。正直同情を禁じ得ないよ」
何これ……滅茶苦茶嫌味ったらしい。
キュンと来ちゃうよ。
アルの鬼畜モード萌えーな私は一瞬で乙女スイッチが入ってしまう。
そのタイミングを見透かしたように教室のドアが開く。
「今の話は聞こえたよ」
そう言って現れたのは腹黒八方美人兄ことエリックである。
「今の声で誰が言ったのかも私は把握したからそのつもりで」
兄のど鬼畜な笑みにクラス全員がゾワリとする。
そんな兄の後ろからもう一人の声がした。
「ノア。これはどういう事だ。クラスの生徒の暴挙を黙認していたのか?」
……って兄は兎も角、何故エドワード王子がここに来るのよ。
「兄上……」
ノアはガタリと音を立てて机から一歩前へ出るとエドワードを凝視していた。
「本来ならクラスをまとめあげるのも支配階級の務めだと言うのに……」
エドワードはそう言うと深い溜め息を吐く。
「姦詐したとはお考えにならないのですか?」
アルは不適に笑いながらエドワードに指摘する。
「姦詐とは面白い事を。もしそうなら貴族の手本となるべき王族に敬意をはらえなくなるよね」
エリックはそう言うとノアを見た。
うっわ~。
腹黒鬼畜全開だよ。
この二人にタック組ませちゃいかん。
マジにそう思った。
「ノア。この件に関しては後でゆっくり話を聞く事にしよう。授業中失礼したな」
エドワードはそう言うとエリックを連れて教室を去った。
代わりに、一人の男性が教室に顔を覗かせる。
「ハイン先生。授業が終わったら校長室へ」
静かにそう言われた古参の先生ことハイン先生は、青い顔をして「イエス。校長」とカチコチになっていた。
そして、そんな教室では授業が進むでもなく、皆虚ろな目をしてお通夜のような静けさだけが漂っていた。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。




