女神様の宝石箱40
受験勉強。
確かにやった。
10代を振り返った時に一番最初に出た言葉はそれに尽きたくらいに。
普通に友達もいて、普通の男女交際をした人なら違う言葉も出ただろうが。
喪女オタクからしたら、学生時代と代わり映えしない社会人生活。
唯一違うと言えば受験勉強だろうか。
今生は我が儘令嬢らしく勉強のべの字もしてこなかった私は、この世界での学識に乏しかった。
そんな馬鹿なお嬢様の唯一の利点は文字が書けて読めること。
他は私が前世から持ってきた知識しか頼りになる物がなかった。
「ざっと確認しました所、貴族マナー全般と歴史と魔法が駄目です。それ以外は意外ですが、私からは及第点を出させて頂きます」
エイミーはそう言うと2冊の本を取った。
「歴史は詰め込みです。取り敢えずこの2冊を時間が空いた時に読むように」
ずっしりとした本をさっと差し出すエイミー。
辞典ですか?
と思う位に分厚い本。
普通は初心者用に薄くて簡単な物を寄越すよね。
「魔法は残念ながら私はあまり得意ではありませんので、そこはアル様にご教授願って下さい」
エイミーは極当たり前のようにアルの名を出して来る。
「何故アルに?」
「アル様は攻撃魔法を使わせたら帝国……ゲフンゲフン。いえ、右に出る者はいないかと……」
何故か慌てて言い直すエイミー。
「えっと……何故そんな事エイミーが知っているの?そんなに凄い魔法なんてアルはここに来てから使った事ないよね」
「そこは、ほら私、感が良いですから」
あぁ、間者としての感かな?
「取り敢えず、私はジュリア様が望まれました『淑女のいろは』について徹底的にご教授いたしますから、そのお・つ・も・り・で」
そう断言するエイミー。
「分かったわ。じゃあ、学園でも私達から離れないで一緒にいてね」
そうこれが今回の私の一番の理由。
一緒に誰か居ればアルのハニートラップから脱出出来るのでは?作戦なのだ。
本当に身が持ちません。
きっといつか心筋梗塞起こします……レベルに心臓が持たない。
あいつ。
いつか目だけで人を殺れるよ。
位に見つめられるだけで心臓が高鳴る。
きっと今もまだ生きていられるのは、悪役令嬢らしく心臓に毛が生えているからなんだよ。
そう解釈していた。
それなのに。
*******
「やぁ、ジュリア。エイミーから聞いたよ」
にこやかに部屋へと入って来るアル。
現在、エイミーのスパルタから解放された私は夢の世界へ逃避方しようと安堵し、何の防御もなく就寝しようとベッドへ潜り込んだ所へのアルの来襲だった。
「魔法の勉強をしたいのだって?」
嬉々としてそう言うアル。
「いえ……そんな事は……」
躊躇うように言っている脇で、私の隣までやって来た。
「エイミーに日中の時間を少し貰おうかと思ったのだが」
「ジュリア様が見事社交界の華になるまでは日中に空き時間などありません」
「と言われたのだ」
そう言って何故かご機嫌に私の隣に滑り込むアル。
「魔術の使い方は魔力の流れを感じる所から始まる」
当たり前のような説明をしつつ、アルは私を覗き込む。
「さしずめ私の魔力を感じる所から始めようか」
アルは端整な顔に笑みを称え私の手を取り目を瞑る。
「魔術は感覚の勝負だ。自身の魔力だけでは直ぐに限界が来る。本当は自然の魔力の流れを感じて欲しいが、今はまだ私の魔力の流れを感じる所から始めようか。一流の魔術師は相手と対峙した時にその力量が解る。さぁ、ジュリアも目を瞑って」
息がかかる位の至近距離でそう囁くアル。
「無意識でも魔力を感じられるのが
目標だから、それまではこうして一緒に眠ろうね」
なぬ?
ギョッとして目を開けると数センチ先にアルの整った顔があった。
なっなななななな………………。
「大丈夫。今はまだ、何も出来ないんだから」
コツンと額を寄せてアルは不本意そうな顔になる。
なんか怖い……けど。
「ねぇ、普通眼鏡は取って寝るものじゃないの?」
何故眼鏡をして寝るのだろうか?
「大丈夫。眼鏡をしたまま寝れる訓練はしているから」
何故そんなどうでも良い訓練をするのか?
時間の無駄なのではないだろうか?
疑問が湧く。
アルはニコリと微笑むと私を抱き締めて来た。
「君の本当の姿をずっと見ていたいからね」
そう言ってアルは目を閉じた。
ん?
このまま?
抱き締められたままなの?
動けん。
苦しい。
そして、更なる苦行が私を待っていた。
お読み頂きありがとうございます。
春先からスマホが勝手にダウンする、フリーズする等々を繰り返しておりまして、スマホを買い換えしたいのですが、メールの未送信が150位あり頭を悩ませています。ショップの店員へ聞くと今使っている機種はメールの移行が出来ないとの事。三年位前から溜め込んだ遺物に悩んでいる次第です。誠に申し訳ないのですが、未完結の作品を大量に投稿する事をご了承下さい。すみません。長々でしたが、今後も宜しくお願い致します。




