女神様の宝石箱4
早速その男の様子を見る為に女の子に案内されながら廊下を歩く。
怪我人を寝かせるには正直薄暗い裏の部屋だ。
扉の前まで案内をした女の子は
「お姉ちゃん。お兄ちゃんを宜しくね」
無邪気にそう言ってダイニングへと戻って行った。
女の子からトレーを受けとった私はそっと部屋に入りその男を観察した。
奥まった部屋で横になっている男は多分私とそんなに変わらない位に見えた。
泥で汚れたままの姿でベッドに横になり、怪我も適当に包帯を巻いただけと、これで本当に怪我が治るのか疑問である。
それに、何となく部屋は湿気とカビの匂いで衛生的とは思えない。
私は静かに男の元へと足を進める。
顔は泥で汚いけれど、良く見れば整っており服から覗く体躯は大分鍛え上げられていた。
私の入室に気付いてか、男はそっと目を開ける。
「何だ。今日はマリーではないのか……」
そう言って身体を起こそうとする。
マリー……あぁ、さっきのあの子ね。
そう思いながら起き上がった男にトレーを渡す。
「今日は何時もみたいな食事じゃなく、まともなんだな」
皮肉気にそう言う男に私は思わず笑いが出た。
「正直な方ですね。私はジュリア。貴方は?」
そう問い掛ける。
「名前はアル……それ以外は覚えていない」
ぶっきらぼうにそう言いながらサンドイッチを頬張る男。
言葉に反してその所作の美しさに疑問が生じる。
「ここではあまり治療が出来ないと思い、貴方を我が家で受け入れる事で神父様と話がついています。申し訳ない無いのだけれど、食事が終わったらそのまま我が家に向かってもらうわ」
「ふ~ん。そうか」
そう言って男は興味無気に食事を進める。
「所で、ジュリアの家って何処の家だい?」
いきなりの呼び捨てである。
所作が綺麗だと思ったけど、とんだ無礼者ね。
そう思い男をマジマジと見た。
「私はウエンズ公爵家の長女ですわ」
そう言うと男は私をマジマジと眺め
「あんた、公爵令嬢なのか」
と驚いて見せる。
益々もって失礼な男。
「そうよ。これでも一応ね。私の様な見てくれの者が公爵令嬢だなんて理不尽だと思うでしょう?」
滅茶苦茶おデブですからね。
「いや、見てくれで身分が決まる訳ではないから……」
嫌に真面目にそう言う男。
何故か変な反応が帰って来るな……そう思ってしまった。
だって私は知っている。
他の貴族の令嬢達が陰で私の事を嘲っているのを。
「取り敢えず貴方は私が責任を持って家で預かります。私はこれから後二ヶ所程教会を回りますので、侍女と共に先に戻っていて下さい」
そう言うと丁度食事を終えた男が私にトレーを差し出して来る。
片付けも私か……。
そう思い荒々しくトレーを受け取った。
「お前、面白いな」
アルと名乗った男はそう言って笑ったのだ。
それが私とアルの最悪の出会いだった。
そして、これが私の試練の幕開けとなるとも知らずに、また一つ善行が積めたと馬鹿のように喜ぶ私がいたのだった。
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