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女神様の宝石箱37

屋敷に帰るなり侍女を一人自室へと呼んだ。


「お嬢様。お呼びと伺い参りました」

そう言って入って来たのは、先日アルを看病している時に料理を運んで来ていた侍女だ。

ブループラチナの髪をお団子にした愛らしい女の子。

「この前はありがとう。私、あまり使用人と仲良くしていなかったので、貴女くらいしか名前が分かる人がいなかったの」

そう言って微笑めばエイミーは複雑な顔をする。

「ほら、私もそろそろ淑女のいろはを勉強したいから、父に頼んで私の専属に侍女を一人つけて貰うことにしたの。だから、これから色々宜しくね」

ニコリと微笑めばエイミーは一瞬困惑する。

淑女のいろはと言った所で変な顔をしたのだ。

「他意はないのよ。本当に他の侍女と会話した事がないの。それとも私の専属は嫌?」

「滅相もございません。私のような新参者を取り立てて頂き光栄ですわ」

エイミーはニコリと微笑み一礼する。

「では、最初にお茶をお願い出来るかしら?」

一応淑女らしくそうお願いすると

「畏まりました」

とエイミーは優雅にお辞儀する。


そう。

エイミーは王家が寄越した間者の一人。

まだまだ私の情報は必要だろう。

今の関係はお互いにウインウインの関係だろうからあちらも断る事はないだろう。


エイミーは手際良くお茶を淹れると私に差し出して来た。

そして、

「本日はアル様とお出かけになられたようで、楽しまれましたか?」

そう探りを入れて来た。

「ちょっと学園へ忘れ物を取りに行っただけなのに……アルったら心配性でついて来たのよね。本当に困ってしまうわ」

やけに絡むからむし、抱きつくしで……。

思わずため息を吐くとエイミーが「仲が宜しいようで」と笑いかけて来る。

一応「ありがとう」とだけ言っておく。

大体私達の事を何と王家に報告していることか……。

「そう言えば、学園で見かけない方を見たのですが、何となく同じクラスのリリア様に面影が似ておられて……エイミー誰か心当りはないかしら?」

あくまでもとぼけて聞いてみる。


こういうのは知らない振りして聞くのが一番効率が良い。

「リリア様に似ておられたのならヒロリン伯爵家の次女フローラ様かと」

「長女ではなく?」

確かリリアって三女という設定だったよね。

「リリア様とフローラ様はお母様似のピンクブロンドのお(ぐし)で、瞳の色もアーバンとそっくりなんです。強いて言えばリリア様の方が丸顔ですが、本当に良く似ておられますわ。長女のルーシー様は金髪ですから髪の色がピンクブロンドなら間違いないですわね」

「そうなの」

エイミー……これは使えるな。

そう思った。

「でも、何故学園へ……そう言えばリリア様もお見受けしたような……」

そう言ってチラリとエイミーを見れば何やら思案している様子。

これ以上の詮索は難しいか。

取り敢えず、あれが誰だか分かっただけでも上々だろう。

しかし、そんなに似ているならそのフローラも回復魔法使えないかしら?

王太子ルートの時に神の愛し子アピールのようなイベントがあり、S級魔獣が出て大勢が怪我をする話があったんだけど、如何(いかん)せん何処でどんな魔獣が出たのか分からない。

ゲームでは夏から秋にかけた時期にランダムで発生し、コマンドもそれらの詳細はなかったんだよね。

挙げ句、魔獣の名前もゲーム中に出ないし。

もうお手上げだよね。


大体S級ってどうやって退治したのか、それも疑問が残る。

本当にイベント回収の為だけにあったイベントのように思える。


「そう言えばお嬢様。来週末はデビュタントですが、アル様とダンスの練習はもう宜しいのですか?」

エイミーの問い掛けにゾワリと悪寒が走る。

「あの、特訓を?」

あの心筋梗塞起こしかねない試練をやれと?

「デビュタントは人生の大事な儀式の一つですわ。練習してやり過ぎはないかと」

エイミーが真面目臭くそう言うが

「人生にやり過ぎは存在しますわ」

絶対死ぬわ。

精神的に。

身が持たないから。

「エイミー。分かる?何事にも節度が大切なのよ。仲良き間にもって言うでしょう?」

「お嬢様。それを言うなら親しき仲にもですわ」

あれ?

突っ込み入れて来た?

意外と話せる人?かな?

お読み頂きありがとうございます。

また読んで頂けたら幸いです。

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