女神様の宝石箱36
ゲームの内容を思い出すと、最初の月は入学式・成人の儀式・デビュタントが大きなイベント回収になる。
気になるのは成人の儀式だろうか?
それと言うのも、立ち会うメンバーで大体の攻略対象が決まるからだ。
入学した翌週の休みにその儀式は行われる。
故に、私はこっそりと学園へ侵入。
図書館で勉強すると嘘をついて門番を回避。
今、私は学園の裏庭に面した泉の畔の教会が見える草むらに隠れている。
しかし、それは私一人ではなかった。
「ねぇ、ジュリア。何故ここに隠れる必要があるんだ?」
そう言って私の隣で体を密着させるように隠れているアルが声をかけて来る。
「シーっ!静かにして、バレちゃうでしょう」
そう言ってアルの口を物理的にふさぐ。
そう私の手で。
そんな私の行動にアルが嫌がりジタバタする。
何となく意地になった私は更にアルを拘束すべく手を回す。
アルと私は、もつれるように繁みの中を転げる。
気付けば私はアルの上に馬乗りになっていた。
「ジュリア繁みから頭出ているよ」
アルの指摘で思わず体を伏せる。
「捕まえた」
クイッと体が引き寄せられ、がっしりとアルに体を押さえられる。
アルから逃れようと足掻くが上手くいかない。
何でこうなったのか?
全然理解出来ない。
でも、一つだけはっきりしている事がある。
そう、私が身動きが出来なくなっていることだ。
なっ……何故にこの体制?
私が上になり抱き合う二人……。
「ジュリアって意外と大胆だよね。こんな繁みで押し倒すなんて……」
確かに今の体制だけを第三者が見たらそう言うことになるだろうけど。
「おっ……押し倒してなんていない……」
抗議しようとしたらチュッと目元にキスが落ちる。
「残念、口は少し下だったね」
いたずらっ子のようにアルが微笑む。
「なっななななな……」
顔を真っ赤にしているとアルの人差し指が唇に触れた。
「見つかりたくないんだろう。大人しく」
ふんぎゃ~っ!!
それさっきの私のセリフ!!
「なっ何してくれますの」
小声でアルを罵ってしまった。
すると、またチュッと今度は鼻にキスが落ちる。
……って……鼻って微妙な気がする。
「唇には届かなかったか……残念」
アルは怪しく笑みながらそんな事を言う。
「もう。アル静かに……」
……してよ。
そう言おうとしたら、グイッと体を強く引き寄せられた。
「シッ。誰か来るよ」
アルの言葉に息を飲む。
教会の前に現れたのはリリアとノア王子とその取り巻きのみ。
嘘……王太子ルート消滅?
もし、ここにノア王子とエドワード王子のみが来た場合、発生するのは二人の王子ルートと隠しキャラルートになる。
しかし、今ここにはエドワード王子は来ていない。
つまり、王太子ルートと隠しキャラルートが同時に消滅した事を意味する。
残されたルートはノア王子とその取り巻きになるが、最初のイベント回収でノア王子とのイベントを発生させている為に取り巻きルートは望み薄。
だから、はっきり言えばリリアはノア王子狙いではないかと解釈した。
でも、ここでジュリアは知らない。
入学式当日、ジュリア達と口論したせいでエドワード王子のイベント回収をヒロインが出来なかったなんて事は。
ジッとリリア達の後を見ていると、私達とは対照的な位置からリリア達を見ている人物に気付く。
あれって誰だっけ?
何処かで見たことあるんだけど。
何となくリリアに面差しが似ているし……何処だったかな?
ぼんやりとそんな事を考えながら見ていたら。
「あの女、さっきの女の血縁者か?」
アルが私にそう尋ねて来る。
「血縁者……そう言えば」
グッドエンドのエンディングで家族がワンシーンだけ出てきたけど、あれリリアのお姉さんだよね。
「確かにリリアのお姉さんだね。何番目かは分からないけど、確かにそうだよ」
でも何故?
こんなストーリーなかったよね。
取り敢えず確認したい事は分かった。
リリア達が教会へ入ると、リリアの姉もそそくさと退散する。
「これは調べる価値あるわね」
さて、リリアの姉とどうやって接触すべきか、ここは情報をいっぱい持っていそうな人物に協力してもらおう。
「アル。私達もそろそろ戻りましょうか」
そう提案する。
「いや、まだここに居よう」
アルはニコリと微笑むと私に回した腕に力を入れた。
「もう少しこの役得を堪能させて」
「嘘でしょう………………」
ギュッと抱き締められた。
結局私はリリア達が教会を去るまでそのままアルに抱き締められていたのだ。
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