女神様の宝石箱35
引き続きエドワード視点です。
「二人だけの世界に入らないでくれる?」
鋭い獣のような眼差しで見つめられ、思わずゾワリとしてしまう。
何処かで見た事のある人物だ……そう思ったが、それ以上にこんな簡単に威嚇される自身に私のプライドが揺るいだ。
何故あんなに攻撃的な言葉を投げたのか自分でも分からない。
気付けば次々と高貴な者には相応しくないような言葉を投げつけていた。
本当にイライラする。
挙げ句、私を無視して二人だけの世界を作る始末。
本当に勝手にしてくれよ。
私はそんな二人を一瞥して弟が待つだろう馬車へと急いだ。
道中正体の分からないイライラがつきまとう。
そんな私の思考は直ぐに切り替えられた。
最愛の弟によって。
「兄上~遅いですよ」
私の姿を見るなり駆けつけて来る弟。
「すまない。少々ご婦人方をまくのに時間が掛かってしまったようだ」
実際はジュリア嬢達と口論していたのだが、まぁあれでもご婦人だろう。
「兄上はお優しいしから、ご婦人方にモテますものね」
甘えるようにそう言う弟に
「まぁ、それも全て王族の務めだからな」
と言っておく。
「そう言えば、少々気になる少女がいまして、先程も話をしたのですが、どうやらまだ成人の儀式をしていないらしいのです。もう17歳を過ぎたらしいのですが、家も其ほど裕福ではないらしく。ほら僕のクラスに噂の悪い公爵令嬢もいるでしょう?今日は顔合わせ程度だったけど、その内そう言うことできっと馬鹿にされるんじゃないかって思うと彼女が可愛そうで……」
上目遣いでそう訴えて来る弟。
いつも困った事が起きると私を頼る弟。
「ふぅ~仕方ないね。確か学校でも簡易的な成人の儀式が出来るはずだから、明日にでも先生にお願いしておくよ」
そう言って弟の頭を撫でてやった。
「ありがとう兄上。やはり兄上は頼りになるます。自慢の兄上です」
弟……つまり、ノアはそう言うと目をキラキラと輝かせた。
弟は昔から何かあると直ぐに私を頼る。
そして、いつも面倒事と根回しは兄である自分がさせられる。
私達兄弟の間では既にそう言う構造が出来ていた。
だから知らなかった。
本当はその少女に成人の儀式を頼まれるのが本当は自分であって、それが私ルートへの最初のイベント回収だった事を。
だから私はそんな事も知らずに手配する裏方のみをして、ヒロインである彼女に会う事もなかった。
そんなヒロインが実は『神の愛し子』と呼ばれ国民の支持を受けるうってつけの人物になるなんて……本当に知らなかった。
全ては私がジュリアに遭遇した事で狂ってしまった未来。
それに気付くのは大分経ってからだった。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。




