女神様の宝石箱30
帰路に着いた馬車の中で私はヘトヘトになっていた。
あれから30分程して二人の無駄な攻防を止めたのは、我が家の御者だった。
「あの……皆様お帰りになりましたので、お嬢様方もそろそろ……」
とても申し訳ないように恐縮する御者。
こちらの方こそ申し訳ない気持ちになる。
そんな私達は馬車に乗り込む時に
「とても仲の宜しいようで、微笑ましいです」
と何故か祝福された。
どうせ始めてじゃないんだからキス位させたら良いだろうと思うかもしれないけど、悲しいかな元日本人の喪女オタクには時間の経過と共に無理難題になってしまっていた。
前世ではあれだけ「リア充爆ぜろ」なんて言っていたのが懐かしくさえあった。
大体アルだって本当に呪いを解きたいのか疑問が生じてしまう。
キス1万回だよ。
毎日やったって大変な回数こなすんだよ。
それなのにさ……って、別に私キスして欲しいとかじゃないんだからね。
ジッと向かいに座るアルの唇を見ていると「クスリ」と笑われてしまった。
「ジュリアのその物欲しそうな顔。良いね」
スッと隣に割り込み私の左手を取る。
「私が欲しいって顔に書いてある」
そう言ってチュッとリップ音を効かせて左手の甲にキスをして来た。
ボン!!
リア充爆ぜろ。
そんな言葉が頭を過りながら、私は顔を真っ赤にしてアルを見ている。
トカトカと心臓の音が鼓膜を揺する。
「ジュリア可愛いね」
更に追い討ちのキスが指先をかすめた。
クスリと笑うアルに「こいつ絶対目的忘れて楽しんでいるよ」とジと目になってしまう。
でも、家に着く前にアルに言っておかなければならない事がある。
それは、一応この国の貴族の端くれとして、別の国の出身だろうアルへ。
「アル。先程は我が国の王子が貴方に大変失礼な事を言ってしまい申し訳ございません。貴族の端くれとしてお詫び致します」
深々と頭を下げれば
「君のせいじゃないし、ジュリアの方が酷い言われ方していたじゃないか」
とフォローしてくれる。
一応死亡フラグになりそうな案件には慎重に行動する事にしている。
だって、素性は知らないけどお父様があんなに上機嫌になる位アルの身分が良いのは窺える。
自国の王子よりもって……まさか帝国の皇子とか?
なんて、まさか有り得ないよね。
ハハハハ………………。
それに、これが切っ掛けで戦争勃発なんて事になったら、責任負わされて死刑とか?
いや、あり得るわ。
あんな男尊女卑思考の王子なら。
「でも、そうだな。そこまで言うならジュリアの方から私にキスをしてくれたら先程の事は忘れよう」
明後日の事を考えていれば、とんでもない要求をされてしまった。
「特別に頬で勘弁してあ・げ・る」
アルはそう言うと私の左手の上に手を乗せて自身の頬を差し出す。
なんてハードルの上げ方なのかしら……。
「ほら……早く」
アルはそう言って目を瞑る。
ひぇ~!!
何要求してくれてんの?
頬にキス。
あのすべらかな肌に……。
本当に男かと思うようなきめ細かい肌に?
私が?
ムリムリムリムリ……。
結局私は自宅に着くまで硬直していた。
あぁ。
女神様。
呪いが解ける前に私はきっとキュンキュンし過ぎて心筋梗塞を起こすわ。
そう思ってしまった。
お読み頂きありがとうございます。
また読んで頂けたら幸いです。




