女神様の宝石箱29
「そんな見た目に耐えられない女の何処が良いのだ?あぁ、そうか。爵位か?」
エドワード殿下が嫌味たらしくアルにそう言った。
すっと細められるアルの瞳。
「私のジュリアをこれ以上 貶める事は私が許さない」
威嚇を含む声音は如何にも命令しなれた者の言葉だった。
「それに、ジュリアの本当の美しさに気付けない君の能力の低さに尊敬してしまうね」
挑発するような言葉に案の定エドワードが反応する。
「美しさ?醜いの間違いでは?そんな女、爵位を取ったら何が残る?女は嫁いでからの価値が全てなのだから、美しさこそが価値だろう?」
何やら男尊女卑的な発言にこれって本当にエドワード殿下なのか?と、思ってしまったのは致し方ない。
だってさ……あの実直で真面目な王太子殿下がだよ。
実は男尊女卑な思考の持ち主だとは驚きを通り越すと言うもの。
学年が違うから乙女ゲームの知識を総動員するに、殿下は大分猫をかぶっている事が窺える。
いくら毒舌だからって男尊女卑はいただけない。
乙女ゲームの中で言っていた台詞が全て嘘くさく感じてしまった。
そして、思うのはお優しい殿下達が悪役令嬢に言っていた事が素で、他は思いっきり猫をかぶっていただけなのではないだろうか?と。
「最近慈善活動をしているとか、怪我をした素性の知れない男を助けたとか君らしくない噂ばかり聞いた。てっきり王太子妃か王子妃を狙っているかと懸念していたが、よもやその素性の知れない男に懸想したとは驚きだ」
エドワード殿下はそう言うとアルを値踏みするように見つめる。
「あの階級意識の強い公爵が良く婚約を許可したものだ……あぁ、そうか。娘が既に清い体でないから切り捨てられたか?」
エドワード殿下のその台詞に思わずあんぐりかえってしまった。
スパイの情報だな。
何人かいる間者は結構仕事が早いらしい。
その内引き抜きでもするか。
大体の目星はついているのだから。
だから、あえてとぼけて見せる。
「何の事やら。私達はまだ清い関係ですわ」
キスやハグはまだ清い関係だろう。
学生の清い交際の域だと信じたい。
「ねぇ」とアルを見やれば微妙な顔がそこにあった。
「確かに、物凄く不本意ではあるが、私達はまだ(呪いのせいで)一線は越えてはいない。でも……」
アルはそう言うと私の腰を引き寄せ顔を近付けて来る。
まさか……こんな公衆の面前でキスをしようと言うの?
「ちょっと、アル止めてよこんな所で」
まるで公開処刑のような行為に思いっきり抵抗してしまう。
アルの口を左手で押さえ、右手は思いっきりアルの胸板を押す。
そんな私とは対照的にアルは私の腰に回した左手を強く引き寄せ、更に右手で私の頭を固定。
極めつけは自身の身を乗り出す始末。
ひぇ~!!
何このスチル。
エロい。
エロいから!!
図柄的には物凄い攻防を繰り広げているのに、内心はバクバク心臓が早鳴る。
絶対いつか私キュン死にするわ。
脳内では既にコマ割されたマンガが展開している。
ありかも……すっごくありかも。
何このシチュエーション……萌えでしょう。
萌え死ぬ……絶対いつか萌え死ぬわ。
そう思うのに十分な出来事だ。
そんな私達のやり取りに、エドワード殿下が盛大な溜め息を吐いた。
「見苦しくない程度でジャレてくれ。私はこれで失礼する」
そうして、萌え萌え攻防を繰り広げる私達を後にエドワード殿下はその場を去って行った。
不幸中の幸いか、この足止めのせいでヒロインによるエドワード殿下のイベント回収が未遂に終わってしまったのだ。
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