表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/45

女神様の宝石箱17

今回はアルのお話です。

「お久しぶりです。殿下」

神父はそう言って深々とお辞儀をする。


「私もうろ覚えだったが、やはり十数年前に失踪したロバート叔父上か……」

そう言って自身の叔父を見た。

「はい、アレ……「アルだ」」

アルの鋭い声にロバートは一瞬たじろいだ。

「敬称も何もいらない、今は只のアルとして」

「はい。賜りました」

ロバートは恭しくアルへ頭を下げる。

「まずは、何故 出奔(しゅっぽん)したのかお聞きしても?」

アルの問い掛けに一瞬の間があり、ロバートは困った様に笑った。

「元々女神様が掛けられた呪いは、気持ちの通じ合ったキスを自身が決めた相手と……とありました。故に皇族は政略結婚が出来ない。私も相思相愛の伯爵令嬢に恵まれネックレスの呪いが成就するものと思っていたのですが、彼女は次第に私個人よりもその権力に目が()らんで行きました。カウントはそこで止まり進むことはありませんでした」

ロバートは何処が遠い目で天井を眺めた。

「そんな私に二度目の恋がやって来ました。庶民出の文官です。彼女は控えめでとても気の利く娘でした。交際は順調に進んだのですが、ある時を境にやはりカウントをしなくなりました。だから問い掛けたのです。私を権力無しの個人として愛してはいないのか?と」

そう言いロバートはお茶をぐいっと飲み込んだ。

「『貴方の権力も貴方の一部。愛しております』と」

すっとアルの方を見たロバートは更に話を進めた。

「二度も裏切られた思いがしました。もう誰も愛せないのだと……それで、身分も何もかも捨ててここへ来たのです」

「そうか……それでジュリアに会ったのか……」

「はい。まさか殿下の婚約者だとは……そんな噂など全然入らず。恥ずかしい限りです」

そう言いながらロバートは新しいお茶を注ぐ。

「いや……実はジュリアは私の本当の身分を知らない」

「は?」

「元々兄弟から暗殺者を差し向けられて逃げている最中だったんだ」

「暗殺者ですか……噂は聞いておりましましたが……まさか本当とは……で……アルは何故兄君方から暗殺者など……」

あの聡明な兄君達が何故?

「もともと皇族の男子には呪いがあるだろう?」

「はい」

ロバートは静かに頷く。

「呪いを一早く解いて伴侶を得た者が次の皇帝になる」

それは昔から決まっていた事。

「我等皇族しか知らない事実ですね」

何故なら皇帝は次代を作らねばならない義務があるからだ。

「して、何故に殿下の兄君達に狙われる事に?」

あれほど仲が良かったのに?

ロバートはそう思いアルを見た。

「兄君達が選ぶ令嬢が何故か(ことごと)く私に惚れるんだ」

アルはそう言うと苦笑いを漏らす。

「まさか……以前からの悪癖が?」

この小悪魔のような皇子は、昔から思わせ振りな態度をとる事があった。

「どうだろうね。思わせ振りな態度がなかったとは言えないけど……」

意味深に笑うアルにロバートはため息を吐く。



「それで何故逃走中に婚約など?」

問題はそこだ。

「婚約者にした件か?たまたま怪我をして行き倒れていた私を拾ってくれた教会に、今日みたいにジュリアが来て自宅に連れ帰り看病してくれたんだ」

夜通し看病してくれるとか……本当に噂とは当てにならないな。

「はぁ……で、何故公爵令嬢と婚約などと言う事に?」

「たまたま呪いの事に気付いてな、面白い女だと思い添い寝していたら、ジュリアが起きる前に父親が出て来て何故か婚約者になった訳だ」

ロバートは一瞬あんぐりかえってしまった。

「相変わらず悪趣味な悪戯を……」

ロバートのその言葉にアルは苦笑いをする。

「では、ジュリア様は貴方が……」

「何も知らず婚約者になっている。父親には暗殺者が差し向けられている事と本当の身分を話してある。実の娘の安全よりも高い身分を取る様だ」

そう言って笑ってやった。

「処で叔父上。一つお聞きしたい」

「何だ?」

突然の話題の転換にロバートはアルを見る。

「叔父上はどちらの気持ちが離れたと思われますか?」

ロバートは一瞬沈黙した。

それは、自身が伴侶にと望んだ女性達の事だ。

「伯爵令嬢の方は政略結婚しておりますが、文官の方は未だに結婚していませんよ」

そう言ってアルは立ち上がりロバートの方へと歩み寄った。

「叔父上。貴方は愛されていたのではないでしょうか?そして、今も愛されている。だから……それだけは忘れないであげて欲しい」


そっと肩に手を乗せその場を離れた。

それに何か意味があるわけではないが、扉の向こうで男のすすり泣く声が微かに聞こえた。


お読み頂きありがとうございます。

また読んで頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ